異世界生活4日目開始
鈴の部屋で目覚める太郎。女性の部屋だからか良い匂いがする。それからほどなくして、朝食の美味しそうな匂いがする。
「太郎くん朝ごはん出来たよ」
鈴の声がする。寝室から出て、リビングに行く。とても広い。目を引いたのが、見たこともないブラックボックス新型なのか、とても立派だ。相変わらず大きい。そして専用コントローラのコネクト。カメラが大きくなっていた。
「太郎くん気になる? 未来のゲーム機のハイスペックモデルよ。スタンダードモデルでも十分凄いけど、オンラインでないとハイスペックモデルと同等の性能は出せないの。クラウドサーバーに接続する事でハイスペックモデルと同等の性能となるの。このハイスペックモデルの凄い所はね、オフラインでもクラウドブースト並の性能を出せるの。その性能は5倍なのよ。このゲーム機の凄い所はね、ホログラムで敵が3Dで浮き出る所なの。それを専用コントローラの全身モーションコントロールで倒すのよ。凄いでしょ」
鈴はひたすら語り出した。語りながら朝食の用意をてきぱきと行う。コーンポタージュに、ステーキ、付け合わせのポテトとニンジンにアスパラ、超大盛りのライス。
「未来のゲームが気になるだろうけど沢山食べてね。異世界生活にはスタミナが必要だから」
太郎は全てが大盛りの朝食に驚いていた。付け合わせですらメイン並に量が多く、肉に至っては1キロはありそうだ。
「旨そうだ。いただきます」
太郎は女性の手料理は初めてだった。高校卒業してからブラック企業に勤め1日18時間労働に年中無休。1日2時間の睡眠。自由時間は風呂と食事を引くと3時間。ほぼ職場と家の往復。高校時代のマラソン大会1位のスタミナで若い頃は乗り切ったが、25歳を越えてから辛くなってきた。このままでいいのか。ずっと疑問に思っていた。気がつけば涙を流しながら食事をしていた。
「旨いなぁ。美味しいよ。鈴さん」
鈴さんは微笑みながら言った。
「本当に元カレに似てる。独特な匂いも雰囲気も。その朝食は元カレに作ってあげてたんだ」
朝食を食べ終わると、鈴さんが後片付けをしてくれた。食器洗いをしていると鈴さんが首筋の匂いを嗅いだ。くすぐったい。
「この体臭懐かしいな。太陽の匂いがする」
もしかしたら、鈴さんが優しいのは体臭が気に入ったからなのかも知れない。匂いフェチかと太郎は思った。
「さ、ゲームをやってみて。サバイバルモード。レベルいくつまで行けるかしら。異世界と違って殺されても死なないから気楽にやってみて」
鈴さんがセッティングすると、ホログラムのゴブリンが現れた。本物そっくりだ。異世界生活した事がないとわからない事だが、本当に本物みたいだ。とりあえず試しに初期装備のナイフで喉を刺してみた。ゴブリンが苦しそうに倒れた。凄く痛そうだ。
「なんかごめん。ゴブリン」
リアル過ぎて罪悪感を感じた。だが、躊躇していると次々とゴブリンが集まってくる。数が増える前に倒さなくては。手に持ったナイフを迫ってくるゴブリンに投げつけ、倒したゴブリンの短剣を手にする。短剣を振り回し、目の前に来た順番に斬った。
「始めは回避しないから簡単でしょ。ボスよ。太郎くん。ボブゴブリン。回避しないと死ぬから気を抜かないで」
ボブゴブリンは大きな剣を振り下ろす。右に回避し、その瞬間に短剣で腕を切る。
「お、回避カウンター凄いね太郎くん。異世界でもその技使えるよ。ゲーム中でも最高に難しいテクニックよ。技術点も高く経験値ボーナスもスキルボーナスも付くし、威力も高い。しかも、相手の攻撃時に当てるから回避する暇もない」
鈴に褒められて調子に乗る山田太郎はボブゴブリンの全ての攻撃を回避し、カウンターで倒した。
「太郎くん凄い! まぐれじゃなかったね。これは君の武器よ異世界でも安心ね。あなたは死なないわ。さあ、次は一気にレベル150よ。太郎くんには低いレベルだとぬるま湯だわ」
鈴はスパルタで一気にレベルを上げた。装備は変わらずナイフから始まった。ナイフで斬りつけると、ゴブリンはその瞬間に回避する。そして、ゴブリンが瞬時に反撃してくる。何度ナイフを振っても当たらない。何度ゴブリンの攻撃を回避したかわならない。ゴブリン反撃が早すぎて避けるだけで精一杯で汗だくになってきた。ゴブリンに回避カウンターを打たれてる。自分の技の恐ろしさを体感した。
「太郎くん。わざと隙を作って。命中させなくていいから、わざと外すの。攻撃を誘ってクロスカウンター狙ってみて」
太郎は攻撃をわざと外す。するとゴブリンが攻撃体勢に入った。ゴブリンは喉を狙ってナイフを突いてくる。それを予想し、頭を振って避けながら回避し、そのまま前に突進し、ゴブリンの喉を突き刺した。暴れ出る血。吐き気がして、ブルブルと震える。
すると、ゴブリンが光と共に消えた。ゴブリンがいた場所に大きな剣が現れた。
「なんで、大きな剣があるのにこのゴブリンはナイフで戦ったんですか? 俺がナイフを持ってたから騎士道で正々堂々戦ったんですか?」
太郎の言葉に鈴が笑った。太郎は余りにもリアルなゲームだった為に異世界で戦っている感覚になっていた。
「太郎くん。これはゲームだからよ。ほらレアドロップの大剣の性能見てみて。金のドロップだから、最上位のルビーやそれに次ぐプラチナより下だけど、3番目にレアよ。レベル1でレベル150のゴブリン倒したから凄いレアドロップボーナスが掛かってるはず。150倍よ」
大剣はプラス50で電の大剣だった。スタン確率50%一撃ごとに相手の素早さ10%ダウン。固有スキルは電光斬り。
「中々の大剣ね異世界で買ったら280000ゴールドはするわね」
「280000ゴールド!?」
日本円でいくらになるか考えるのも馬鹿らしくなる価格だった。28億円ってなんだよ。
「まあ、プラス50だから大剣50本ぶんの値段もプラスしてるけどね。さあ、お昼ご飯にしよう。5時間も戦い続けてお疲れ様。シャワーでも浴びてきて。着替えは元カレので申し訳ないけど、洗濯済みだから。その間に昼食作っておくね。昼はパスタで軽く済ませて、夜は高級焼き肉にしようか。せっかくの東京だし奮発するよ」
太郎は驚いた。太郎は北海道の札幌近郊の街に住んでいた。観光地の小樽だ。夜景や運河、新鮮な寿司が人気。鈴は東京。どれだけ距離が離れているんだ。異世界バスの凄さに目がくらみそうだった。同じ北海道の住人と話していると思っていたのに、毎日東京の人と話していたなんて。