異世界生活2日目終了
幽霊先輩が見送るなか、太郎は段ボールをバスの横の収納に入れて、異世界バスに乗り込んだ。料金3000円を支払いバスの奥に行った。
「おはよう。太郎くん昨日はよく眠れた?」
鈴が大きな赤い宝石が3つもはめ込まれている剣の手入れをしながら太郎に挨拶をする。今日は鎧姿だ。
「おはようございます。はい。よく眠れました」
「ごめんね。今日は友達に頼まれてトロールの討伐なんだ。錬金術師に奥の森から薬草や毒消し草を届けてあげてね。あの子本当に滅多な事では自分で動かないから心配なのよ。それでも、魔法を使える者が王都に集中する中で残った変わり者だから仲良くしてあげて」
魔法が弱いアルセルーン王国は王の命令で魔法使いを王都に集め、戦争に利用しているのだ。その中で移動が面倒だと王の命令に背いたオリヴィア。無事に済んでいるのは鈴が尽力したからだった。例え田舎でも、回復薬や解毒剤を作れる人間がひとりもいなくなるのは大変だ。と王に訴えてれたのだった。
「モブ太郎。薬草摘み頑張ってね。私も半年くらいやってたんだ。高価な草も生えてて慣れれば結構な稼ぎになるよ」
「それはゆっけが凄いからでしょ。崖もひょいひょいと駆け上がれるんだから。太郎くんは無理せず、近場の薬草摘んでて。スライムが出たら、そのスプレーで焼き払うのよ。今度は未来都市を案内するね。オススメはライトセイバーみたいな剣。なんと未来ではマックロソフトの家庭用ゲーム機ブラックボックス365が巻き返しているのよ」
ゆっけの話を聞くかぎり中々奥が深い仕事なようだ。森の奥には高価なお宝が。太郎は胸をわくわくと踊らせた。太郎は探検が好きだった。明日は登山の道具を買って持っていこう。
未来ではまさかのマックロソフトのゲーム機が売れているとは。太郎は売れていない頃からブラックボックスのファンだったので普通に嬉しく、天下を取ったと聞いて嬉しかった。マックロソフトは世界でトップクラスの企業で収益も毎年倍になっていたので、天下を取っても何の不思議もなかった。
ついでに勉天道のゲーム機のスマッシュも買っていこう。鈴の話でゲーム持ち運びたいと思ってた事を思い出した。持ち運べるから異世界でも遊べる筈だ。どこでも遊べるがコンセプトの勉天道DAは既にあるが、スマッシュはブラック企業勤めでどうせ遊ぶ時間が無いと買わなかった。そして何より、予約ぶんで精一杯で店頭にすら並ばない程の品薄だったので買えなかった。今は品薄が解消され1週間で28万台も売れる超人気商品となっている。他のゲーム機が週に5万台程度だと考えるとその化物ぶりが際立つ。
「しかし、鈴さんがここまで面倒見るのも珍しいね。元彼に似てるからかな?」
「違うわよ! 人を誰かの代わりにするような事はしないわ…人は皆特別な存在なのよ。誰かの代わりなんかひとりもいない、ひとりも代わりを果たす事は出来ない。何故なら人間の可能性は無限ですもの」
山田太郎は鈴の言葉が胸に突き刺さった。ブラック企業勤めの時にお前のかわりはいくらでもいると言われ続けてきたからだ。気がつくと涙が出てきていて慌てて涙を指で拭った。
「確かに私のかわりは中々いないみたいね。キャバクラ数ヶ月行ってないけど、まだ在籍中だもの」
ゆっけは度々興味深い発言をする面白い人だなと思った。感動の話でそこが着地点!?
まあ、その通りなんだけどさ。
「モブ太郎。スライムの体当たりには気をつけて。女の子が相手の場合、服を溶かしてくるだけだけど、男が相手の場合容赦なく体を溶かしてくるよ。体当たり食らうともうアウト。スライム酸で溶かされて終わりよ」
ゆっけの的確かつ現実的なアドバイスに絶望した山田太郎。男は辛いぜ!
「鈴さん、ゆっけアドバイスありがとう。頑張ってくるよ」
「うん。太郎君頑張ってね未来都市楽しみにしてて」
「モブ太郎。私は王都に暗殺に行くから昨日みたく後ろから見守れないけど頑張ってよね」
「ありがとう。行ってくる」
山田太郎は鈴さんとゆっけに見送られながら異世界バスを降りて、バスの側面にある収納から段ボールを取り出し、山のてっぺんにある錬金術師の所に向かって歩き出した。すると背後から声がした。
「美女ふたりに可愛がられやがって死ねや。ちっ! 調子に乗りやがって」
段ボールを持って歩いてたから後ろを振り返るのが面倒だったのと、振り返ると確実に喧嘩になるので、振り返るのはやめて無視して歩き続けた。相手の声が何言ってるか聞こえなくなった頃、錬金術師の住む山の入口に到着した。そこから山を上がると、今日は何事もなく錬金術師の家までたどり着きそうだった。
「ここは俺に任せて先に行くだぎゃ! 今日は猪鍋にしてやるだぎゃ!」
と思った矢先に猪に襲われたが、昨日のゴブリンが助けてくれた。
「ありがとう。またな!」
太郎はゴブリンのおかげで二個段ボールを持ちながら無事に錬金術師の家に到着した。無理して2つ持ってきて良かった。家の中に入ると、段ボールを手渡した。
「薬草摘みに行ってきます」
「買い物ありがとうね! 気をつけて! これと同じ草を集めてきて。あ、お釣りは取っておいて」
錬金術師は気前が良くて助かった。スムーズに事が運ぶ。今日はラッキーだぞ。錬金術師の家の裏側にある北側の山に薬草や色々な草が生えてる。そこに山田太郎は向かった。順調に薬草を摘み取る。
「何だ。スライムなんていないじゃないか。やっぱり今日はツイてるみたいだ」
山田太郎がバッグいっぱいに薬草を詰めた後の帰り道、背筋がゾクゾクとした慌てて後ろに飛ぶ山田太郎。予測というより、予感というより予知だった。
太郎の背中から服の中に侵入し、背中から溶かして内蔵を食らおうとしたスライムの思惑は見事に回避された。
「スライムが次々と上から降ってきた!」
俺の台詞が取られたがその通り。山田太郎の頭上から次々とスライムが爆弾のように降ってくる。50メートル走った頃でスライム爆弾は止まった。
3メートルおきにスライムがいる感じで並んでた。これはある意味チャンスだと思った山田太郎。超強力噴射のスプレーを片手にオイルライターに火をつけた。まるで火炎放射機のようになり、スライムを焼き尽くす。5匹程焼き尽くした頃、残り5匹のスライムが一ヵ所に集まり、5匹並んでいる。そして次々と飛びかかってくる。回避しても次のスライムが体当たりしてくるため、全く隙がない。火炎放射しようにも、距離が近すぎる。万策尽きたと思った所で、30分も連携した必殺の体当たり攻撃を回避され続けたスライムが激怒した。5匹のスライムが合体する。
「あ、チャンスだ」
山田太郎はスライム達が青い光を放って合体している最中に強力水圧の水鉄砲に灯油を入れて、それをスライムに掛けた。そしてスプレーファイアを食らわせた。
「まだ合体終わってないのにー」
スライムが断末魔の悲鳴をあげて、大きな赤い石を残して蒸発した。
「やれやれ、これで帰れる。もう木の上にいないよな?」
太郎は上を確認しながら歩き、森を出て錬金術師の家に向かって歩いた。カレーの匂いがした。
「太郎くん。お帰り。このカレーと鈴木のご飯は楽だし、美味しいね。中川ってカップ麺もいい感じ」
錬金術師は太郎が買ってきた物を気に入ったようだ。
「でしょー! それ美味しいですよね。薬草ここに置いておきますね」
「おー! 沢山薬草取れたね。これだけ集めるとスライムも沢山出たでしょう。やつらは薬草集めて帰る途中のやっと帰れると気を抜いた所を狙う習性があるよね」
先にそれを言えと思ったが、その細かい事は気にしない所がいい所だと思う事にしておいた。薬草を錬金術師が計りに乗せた。デジタル表示の現代の物だ。何か異世界のムードが壊れて嫌だ。そりゃ見慣れた物があって安心するけ、何か嫌だ。と山田太郎は思った。
「今日は3ゴールドだね。薬草1キロで1ゴールド毒消し草500グラムで2ゴールド。他は食べられる草だったので私が炒めて美味しく召し上がります。この草は銀貨2枚と銅貨5枚ね」
「お疲れ様でした。失礼します」
「ええ、またよろしくね。3ゴールドあれば15日は食い繋げるけど、明日も来てくれると嬉しいな」
と言う錬金術師。異世界の1ゴールドは1万円。銀貨は1千円、銅貨は100円だ。太郎は錬金術師の家を後にした。そして酒場で客の言葉を聞きながら鈴が著作の異世界言語入門を使って自分で翻訳して遊んでいる。そして、美味しそうな料理を見るとあれと同じ物をと注目した。そんなこんなで肉料理をつまみに酒を飲みながら過ごし、3時間が経過し、異世界バスのチラシが輝いたのでバス停に向かった。
「太郎くんおかえり。お酒飲んだんだね。という事は薬草を上手く集められたようね」
「ええ、バッチリでしたよ」
「モブ太郎偉いよ。よしよし。なでなで。あ、酒臭っ!」
鈴さんとゆっけが迎えてくれた。鈴さんは微笑み、ゆっけは髪を撫でてくれた。今日も生きて帰れた。初めての仕事もこなせた。いい夢が見れそうだ。