異世界生活17日目終了
山本太郎は思った。空気の重いバスから早く降りたい。誰も会話をしない。いくらアザゼルを無視する為とはいえ、とても嫌な感じだ。ようやくバス停に到着した。10倍は時間が長く感じられた。
「貴様ら覚えておけよ。この俺を無視した事を」
アザゼルは乗客達を睨み付ける。凄い剣幕だ。それから全員がバスを降りて装備を身につける。19人もいると大変だ。
「あー話したかった。太郎くん。こんばんは。今日は私も同行するよ。サターナさんがいないしね」
鈴さんが一緒に来てくれるのはありがたい。でも、忙しい鈴さんが来て大丈夫なのだろうか。鈴さんは商売とか色々あるだろうに。
「モブ太郎私もいるよ。だから鈴さんは商売してても大丈夫だよ」
「ゆっけありがとう。でもね、他の人に任せてあるから商売は大丈夫よ」
俺達は鈴さんを先頭にギルドに向かう。大人数用の依頼を受ける。そこにアザゼルが現れた。一体何をしに現れたかと思うとすぐに帰っていった。
「さあ、行くわよ。山奥に大量発生したトロールの討伐。アザゼルがいると火炎魔法しか使えないから大火事になってしまうから放置されていたのね」
俺達は山奥に向かって歩く。すると、山が燃えている。
「大変! 私が火を消すから皆は逃げて!」
鈴が叫ぶ。水の魔法で炎を消し去る。そこには木っ端微塵になったトロールの死骸があった。アザゼルが格好つけたポーズで勝ち誇っている。
「これを見ろ! 俺の力をトロール10匹くらいこの通り一瞬だ!」
鈴が必死に森の火を消すとアザゼルを殴った。
「あんたのせいで山火事寸前よ!」
「貴様この俺の美しい顔を殴ったな! 殺す!」
鈴さんとアザゼルが戦い始める。そこにゆっけが加わる。アザゼルはふたり相手に苦戦し、10箇所の傷を受けた。
「く、覚えていろ。こんな森ごとき燃え尽きてもかまわないだろうに!」
アザゼルが空を飛び逃げようとしていると、異空間が開いてガイルが現れた。ガイルはアザゼルを殴り、アザゼルは地上に叩き落とされた。そこにゆっけが襲いかかる。地面に両手をついたアザゼルはゆっけに首を切られた。出血が多い。首の傷を自分で焼いて血を止めた。
「貴様らたかが人間ごときが! この虫けらめー!」
アザゼルが森に爆裂魔法を使って火災を起こす。
「そんなに森ごときが大切なら守ってみろ! さらばだ!」
鈴さんは森の火を消すのに手一杯でアザゼルを逃がしてしまった。ゆっけはアザゼルを追いかける。平原で追いついた。アザゼルはまた空中に飛んで逃げようとするが、ガイルが空中で殴りまた地上に落とす。そこに高志が現れた。
「お前は過去に225人の参加者を守らず死なせた。その中には俺の元カノも含まれる。そろそろいいだろ。その罪を背負って死ぬがいい!」
高志の攻撃をシールドで防ぐアザゼル。そのシールドは背中には貼られていない。背後からゆっけが刺した。アザゼル振り返り、爆裂魔法をゆっけに放った。が、ゆっけの姿はそこには既にない。
「私もあんたの爆裂魔法が原因で元カレ殺された。彼は骨も残らなかった。あんたが周囲を気にせずボンボン爆発させるからそれに巻き込まれて殺された。あんた覚えてる? この無能案内人が! あんたはただ強力な威力があるだけなのよ! 動きも遅い。隙だらけ! 空にさえ逃げなければあんたはただの雑魚よ! いつも遠くから吹き飛ばしてばかりで相手の攻撃を避けることを学ばないあんたはね!」
ゆっけは畳み掛けるようにアザゼルを糾弾した。
「うるさい! うるさいゴミ虫がー! 弾け飛べ!」
アザゼルはゆっけと高志に爆裂魔法を投げつけた。だが、素早い動きで爆発の範囲外に逃れて前進し、前後からアザゼルの胸と腹を突き刺した。
「く……このまま死んでたまるか! お前らクソ雑魚も道ずれだ!」
アザゼルは山田太郎達めがけて特大の爆裂魔法を投げつけようとする。
「させるか!」
高志がアザゼルの首を切った。首が空中を舞う。
「終わりだ。虫けら達」
もう死ぬと太郎達が思った時、鈴がシールドを貼ってくれた。これで助かったと思った瞬間、シールドが破壊され、大爆発した。鈴は吹き飛ばされ、何本も木を倒しながら飛ばされていく。50メートルほど飛ばされた所でようやく止まった。
「鈴さん!」
太郎が鈴に駆け寄る。そして、手を差し出した。
「鈴さん大丈夫? 立てるかい?」
「大丈夫よ太郎くん。あれ、おかしいな足に力が入らないな……あれ? 何これ私の足が別の人の足みたいに感覚がない。あれ? なんで?」
「鈴さんそんな……嘘だ!」
太郎は鈴を抱き起こして泣いた。鈴も泣いていた。鈴はこの日から両足が麻痺して車椅子生活を余儀なくされた。太郎はこの日から変わった。鈴の怪我を治すため、薬草や魔法を探しに様々な場所をひとりで探すようになった。ツアー客の面倒はゆっけが見ることになり、ぼっちを誇りとしていた彼女は友達に囲まれて本人も驚いている。友達17人と親友1人。その親友は錬金術師だ。毎日薬草を届ける内に仲良くなったのだ。高志もたまに手伝ってくれる。アザゼルという不純物がいなくなり、サターナも帰ってきた。だが、失ったものは余りにも大きかった。




