異世界生活16日目終了
幽霊先輩の普段と違う何かを感じ、背中に寒いものを感じながら太郎は異世界バスに乗り込んだ。バスの一番後ろの席にはいつもつ変わらず美しい鈴さんが座っている。毎日違う服装で、Tシャツとジーンズの時もあれば、昨日のように高そうなドレスの時もある。冒険者の格好をしている事はほとんどなく希だ。雨が降るくらいの割合だ。
「太郎くんこんばんは。今日は顔色が悪いわね。青い顔してるわよ」
鈴さんが心配して俺の頬を撫でてくれる。冷たい手が心地よく、少しくすぐったい。
「なになにモブ太郎どうしたの」
ゆっけも鈴さんの真似をして俺の頬を撫でる。いや撫で回す。これでもかというくらい頬を撫でられ、頬をぷにぷにとつつき、散々遊ばれた。
「ゆっけ触りすぎー」
「だってぷにぷにしてて気持ちいいんだもん。むふー」
ゆっけは頬に飽きたらず、今度は俺の尻に指をぐいっと手のひらを突っ込んで揉みしだいた。
「お尻も柔らかい。むふー」
ゆっけは大興奮で大暴走している。あの、これってセクハラですよね。だが、悲しいもので女の子に触られると嬉しくはあっても気持ち悪くはない。でも、段々と鈴さんの顔が険しくなり眉間にシワがよってきている。
「あの、ゆっけさん、そろそろセクハラやめて下さいますか」
「あ、これってセクハラだったか。ごめんね。気持ちよくてつい。むふー家に帰ったら特大スライム作って揉みまくろう。むふーむふー」
ゆっけのセクハラタイムが終わるとバスが停留所に到着した。キングスレイトン王国の田舎町だ。そろそろこの町から出てみてもいいかもしれない。そもそも、この町の名前すら知らない。ただの異世界バスの停留所となっている町だ。こんな緩くて温い俺が鈴さんのパートナー本当にいいのだろうか。悩んでても仕方ないのでバスを降りて錬金術師の所に向かった。
今日も猛ダッシュで薬草を集め、木の上のスライムと追いかけっこだ。スライム達は俺の姿に気がつくと出口の方に向かう。俺は中腰のまま高速で動き薬草を摘みながら移動する。ブルーシートはズボンの中に先を入れてベルトでぎゅっと閉めてあるのでブルーシートは俺の後をついてくるような感じになっている。背後に摘んだ薬草を放り投げ、行きには右側の薬草。帰りには左側の薬草を摘み取った。薬草摘みもかなり上達したものだ。スライムの様子を見る。まだ仲間探しの途中のようだ。さて、最近他のバスの乗客の事が気になるし、冴子達をギルドで待たせるのも悪い。今日はブルーシート1枚ぶんの薬草で我慢する事にする。1時間もこの森に滞在すると10匹以上のスライムが現れるだろう。ここは欲を出すと死ぬのだ。その事からだろうかこの森の名前は無欲の森というらしい。
久々に山田太郎の頭の中を覗いてみると少しは進化しているらしい。彼はスライム達が合流する前にさっさと森を出ていった。スライム達は悔しそうによだれのように酸性の液を垂らしてその背中を見送る。それからギルドに行き、冴子達と合流する。
「太郎さん大変です。サターナさん達はボブゴブリン25体の討伐に行っちゃいました。私達止めたんですけど、手柄を立てないとアザゼル先輩をいつまでも超えられなくて、クビになってしまう。アザゼルの代わりにこのバスの担当になる為に頑張るの。とサターナさんは言ってました。場所は東の元山賊のアジトです」
「わかった急ごう!」
「はい!」
山田太郎は急いだ。適当に見えたサターナがそんなに真面目に職務に取り組んでいたとは。錬金術師の家を東に1キロほど進むと山賊のアジトが見てた。その時、森から何者かが出てきた。
「おい。冒険者さん。俺は山賊の頭ルドルフ。これからボブゴブリンの集団を倒しに行くなら仲間に入れてくれ。前に行った連中じゃダメだ。あんた達なら倒せる気がする。仲間の仇を取るために力を貸してくれ!」
「ああ、いいぜ。仇を取ろう。急ぐから早くいこう!」
「悪いな」
山田太郎は山賊の頭目を仲間に加えて元山賊のアジトに踏み込んだ。中に入るとボブゴブリン達が集団でサターナを犯していた。
「貴様らー!」
太郎は猫のような柔らかさの髪の毛を逆立てて怒り、獣のように暴れまわった。もう怒りで我を忘れている。太郎の背後ががら空きで襲われそうになると元山賊リーダーのルドルフがその背後からボブゴブリンを殺して太郎を守る。太郎は前方は完璧だったが、背中の注意は全く出来ない。その状態をルドルフは上手くフォローしていた。そして全身ボロボロのサターナを冴子達が救出した。
「ごめんね……乗客の皆様は全員逃がしたけど負けちゃった……私クビかな……この仕事向いてないのかな。アザゼル先輩にはイジメられるし……」
サターナは泣いていた。大粒の涙を流し。太郎とルドルフがボブゴブリン15匹を倒し、異世界バスに戻った。すると乗客はサターナに抱きついた。
「無事でしたかサターナさん!」
「ありがとう。体をはって逃がしてくれて本当にありがとう!」
サターナを中心に乗客達は輪になっていた。サターナはもうこの異世界バスに無くてはならない存在となっていた。それなのにサターナはクビにされ、翌日アザゼルが復帰した。




