異世界生活16日目開始
自分の部屋に戻ってきた山田太郎は上機嫌だった。より重たくなった大剣を素振りできるからだ。2倍近い重量になった大剣は凄い。振り抜くだけで風圧が出て遠くのカーテンが揺れる。それが面白くて太郎は何度も振り抜く。カーテンの揺れが大きくなると満足してやめた。全身汗だらけだ。
そのまま寝転がり、大きな段ボールを持ち上げる。鈴から送られてきた大剣が入っていた長い段ボールで、漫画や小説を沢山詰め込んだ。とても重い。それをバーベルの代わりに使っているのだ。これも腕の筋肉が限界になるまで続けて、腕立て伏せに移行する。沢山の本の重量よりは軽く、素早く腕立て伏せができた。もう少しで残像が出来そうなくらい早い。
腕のトレーニングが終わり、ランニングに出掛けた。鉛の重りは最大限につけられており、新たな重りとして水道水を満タンにしたペットボトルを登山用リュックに沢山詰め込んで重りとした。その状態で走るのはかなりの筋肉酷使だった。いつもより倍近く時間が掛かってしまった。パンパンになった筋肉を感じながら太郎は微笑んだ。いい感じだと。
その日の食事は家で余った食材の大掃除で鍋にした。ランニングの帰りにスーパーに寄って出汁の出そうな食材を買ってくるとそれを入れて、冷蔵庫の余り物の野菜を適当に入れた。大量の灰汁を取って、鶏ガラは粉状のもので済ませて調味料を加える。ガスコンロを用意してひとりで食べては何度も野菜や肉を加えて食べた。最後に牡蠣を入れてご褒美として、締めに溶いた卵を一回り雑炊にして綺麗に全て食べた。ずいぶんと大食いになったものだ。太郎は自分の体の変化に驚いた。腕や足や腹筋がまるで別人のように鍛え上げられている。そしてゲームの繰り返し戦闘をセットし、仮眠を取り、深夜に目覚めた。
「やあ、数日ぶりだね」
幽霊先輩が俺の家に来ていた。いつもバス停で会っていたので不思議な気分だ。
「お久しぶりです」
「昼間のトレーニングは見てたよ。俺の大剣に別の大剣を合成するとは。よく2倍の重量で普通に振れるものだ。悔しいが俺にもその真似は難しいだろう。筋肉が慣れるまで時間が掛かりすぎる。と言っても、生きた肉体があればの話だけどね。そして、鈴と君が寝た時も見ていたよ。悔しくて血の涙が出そうだったけど耐え抜いたよ。君以外の相手だったのなら殺していたかも知れない。なんてね、とりあえずおめでとうと言っておこうか。それでは、またね」
「はい。またです」
今日の幽霊先輩は幽霊みたいで怖かった。要するにだ、世間一般的な幽霊のイメージのように怖かったという事だ。山田太郎は背中に悪寒を感じていた。それからバス停に行き、異世界バスを待った。そして、いつものように突如としてバスが現れてドアが開き、いつものように乗り込んだ。




