表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界バスツアーにようこそ  作者: ルンルン太郎
15/45

異世界生活7日目終了

 山田太郎は安井の妨害にも臆する事なく、異世界バスツアーの客を仲間に引き入れた。気になるのがゆっけの存在だ。短剣を黙々と手入れしている。その短剣には赤い宝石がハメ込まれており、その刀身からは炎が出ている。次にもう1本の短剣を手入れする。その短剣には同じく青い宝石がハメ込まれており、冷気を発していた。


「ん? この短剣? いいでしょー1本15万ゴールドだよ。買いますか?」


「いえ、無理です。いいです」


「そうですかーむふー」


 ゆっけ自慢の武器と言った所か。山田太郎は魔法の武器というのは初めて真剣に見てみたので驚く。宝石が気になり、高志の3人ぶんのスペースを取っている槍も電気を発していた。金色に輝く宝石が3つもハメ込まれている。


「ねえ、モブ太郎。何でそんな簡単に友達が作れるの? あの卒業したふたりも友達でしょ?」


「ん…あのふたりはいい人だったし、何だろう。気が合ってた気がするよ」


「そうなんだ。私ね、思うんだ。友達ってさ、何をするのも一緒で、気が合って、何でも悩み話せて、お互いに困った事があるとすぐに駆けつけて、以心伝心の関係だと思うんだ」


 重い。ゆっけの友人の定義が重い!


「ゆっけさん、それってさ、親友の定義だと思われますが。アニメとかでもさ、そこまで仲いいと既に親友とかになってない? 友達ってさ、一緒に遊んだり、買い物したり、ご飯行ったり、映画見たら既に友達だと思うんだ。その中から親友になる人を見つけていくものだと思うよ」


「違うの! そうじゃなくってね、親友ってのは…」


 それからバスが停車するまでゆっけの親友に対する定義が語られ続けた。何かもう、運命の相手に相当する感じだった。


「行きますか」


 バスの中には、冴子、愛、杏理、ゆっけ、高志、鈴と山田太郎だけになっていた。


「あ、鈴さんハイポーションと解毒剤ありがとうございました。おかげで人ひとりの命を救えました」


 いけないお礼を言うの忘れてた。鈴さんは今日は無言で機嫌が良くないように見えた。


「太郎くん。その調子で頑張って。君の肩には16人の命が掛かっている」


 重い。この人の言葉も重い!


「はい! 頑張ります!」


 とりあえず、残り13人か。アザゼル復帰後、ツアー客を全員引き抜かなくてはならない計算か。重いよ鈴さん。そんなの無理だと言いたい。とりあえず、バスを降りて、山田太郎達は、錬金術師の所に向かった。いつものように、薬草を摘み取る。冴子、愛、杏理にこれと同じ物をと見本を見せ、薬草、毒消し草、麻痺毒の解毒剤の草を集めてもらっている間に、ハイポーションの材料を取りに行く。


「モブ太郎。この先に魔物の気配がするよ」


 突然ゆっけの声が背後から聞こえた。ゆっけの気配は無かったけどな。あー驚いた。


 ハイポーションの材料を集め終えると、ライオンのような姿で大きな蛇を体から生やした魔物が現れた。キマイラってやつか。キマイラは炎を口から吐いた。


「キマイラなら氷の短剣ね」


 ゆっけは一瞬でキマイラの近くに飛び込み、青い宝石の短剣で斬りつける。すると、その傷口が凍った。そしてもうひとつの赤い宝石の短剣で蛇を斬った。一瞬の出来事だった。そして、ゆっけの姿はもうそこにはいない。


「トドメは任せたよ」


 ゆっけの声が俺の後ろからした。いつの間に背後に。


「任された!」


 俺は痛みに怯んだキマイラに突撃し、凍った箇所を鉄線バットで殴る。氷が砕け、顔半分が砕け散った。それでもまだ動く。何という生命力。俺はそのまま、3回殴り、横に嫌な気配を感じたので後ろに跳んだ。すると、横から蛇が噛みつきに来ていた。それを間一髪で避ける事になり、鉄線バットで殴る。一撃で地面に叩きつけ、トドメの一撃を入れて頭を叩き割った。地面とのクッションで衝撃が逃げないので、その衝撃が100%伝わったのだ。


「やるじゃない。山田太郎。さすが、鈴さんが気にするだけあるわ」


 ゆっけが俺の肩を背後から叩いた。すると、またゆっけの姿を見失った。俺の背後にはいない。


「キマイラは必ず魔法石を持ってるから回収するのよ。ほら、これ」


 ゆっけは人間で言えば心臓のある位置から赤い石を取り出した。それを俺に向かってほうり投げた。


「なんだこの石。温かいな」


「それは炎の魔法石。売れば400ゴールドにはなる。削って加工したら1200ゴールドくらいかな。結構上物よ。それ」


「それじゃ、魔法石を加工するのに600ゴールド払って、1200ゴールドで売れば600ゴールドの儲けか…とりあえず、初めは先に加工だけしてもらって、売れた金額の半分を支払う計画で行こう」


 俺は魔法石を加工する人に当てがあった。

 早苗クロフォードだ。彼女の下水道の管理室には加工作業途中の魔法石があったのだ。このビジネスが起動に乗れば、彼女は現代の借金を返して元の生活に戻れるかも知れない。


「さあ、あっちにもハイポーションの材料あるよ。山田太郎」


 ゆっけの呼び方がモブ太郎から山田太郎に変わっていた。モブ太郎の方が嬉しいのだが。あだ名っぽくて。


「おお、沢山あるね! こっちにも見つけた。そっちは頼むよ」


 山田太郎とゆっけは、大量にハイポーションの材料を獲得した。10本ぶんはあるだろうか。急な斜面を登った甲斐があるというものだ。その頃、冴子達も登ろうとしていたが、全くダメで登っては滑り落ちての繰り返しだった。足の指の踏ん張りが弱いので常人では到達不可能な場所にふたりはいた。


「ただいまー」


「お、おかえりなさい。心配してましたよ」


「お待たせしちゃいましたね。強敵がいたので苦戦してしまって」


 崖の斜面を滑りながら下るとそこで冴子達が薬草を摘み取りながら待っていた。


「さて、帰りはここからが本番です。とりあえず、矢にこれを撒いて下さい」


 山田太郎は錬金術師のベッドの布団が汚いのでシーツを買って来たのだが、それを切って矢に巻いた。それに灯油を掛ける。


「矢じりがあると勿体ないですね。そこら辺の枝を使って軽く削って矢を作りますか」


「あ、はい。皆でやりましょう。内職みたいで楽しいですね」


 冴子達と山田太郎は黙々と枝を削って尖らせて布を巻いた。ゆっけは勉天道のスマッシュというゲーム機でモンスター狩人をやっている。


「よっしゃ! ビルガンテをソロで倒してレア素材もゲット! しかも無傷! むふー」


「おめでとう!」


「おめでとうございます! 私達は3人でやっとです」


 ゆっけは嬉しそうにニコニコしてゲームをブランドバッグに戻した。


「さあ、行きますか。これからは頭上注意でお願いします」


「あ、はい」


「うん。わかりましたー」


 冴子と愛と杏理は頭上に何がいるのかわからないようだった。出口付近で何かに気がつく。木の葉の色に隠れて何かが動く姿を。


「ちょっと待って! 愛、杏理、木の上に何かいる!」


「ん? 何もいないですよ冴子お姉さま」


「止まるんだ!」


 愛と杏理は止まらず歩く。そこでゆっけはやれやれと言って、ナイフを木の実に投げた。木の実が燃えた。


「ぴぎゅー」


 木の実は声を出した。それは木の実に擬態したスライムだった。ゆっけは隣の木を使い、交互に蹴り上がり三段ジャンプで木に登り、刺さったナイフを回収する。そのナイフにも小さな宝石がハメ込まれていた。


「ぴぎゃー! ぴぴー!」


 スライム達は仲間の死に怒ったのか、木の上から一斉に飛び降りた。その数50匹。


「おおー今日は随分いるな。スライムくんいいのあげるよ。3連火炎瓶」


 山田太郎は3本同時に火をつけた火炎瓶をスライムに投げつけた。15匹は燃えただろうか。熱さでスライムが暴れて跳び跳ねて、次々と燃え広がるのだ。


「冴子さん、愛さん、杏理さん宜しくお願いします」


 冴子達は一瞬戸惑ったが、先程用意した矢に布を撒いて灯油を染み込ませた武器の意味を理解した。


「あ、はい。任せて下さい」


 山田太郎が身をかがめながら、次々に矢にオイルライターに火をつけて、冴子達が次々とスライム達を矢で貫く。スライムはよく燃える悲鳴を上げながら燃え尽きる。苦し紛れに突進してくるスライムはゆっけが魔法の短剣で切り刻み、50匹のスライムを全て倒した。後に残るのは人の骨。誰かがスライムに食べられたのだろう。こうして、全員が無事に生き残り、錬金術師の家に薬草を届ける事ができた。


「何これ美味しい!」


 錬金術師は太郎があげたカツサンドを美味しそうに食べる。それから、錬金術師の所で冴子達に雑談しながら待っていて錬金術師と親交を深めてもらっている間に、太郎は早苗クロフォードの所に行った。


「これの加工頼めるかな。報酬は売った代金の半額」


「これは上級の魔法石ね。任せて。3日後に取りに来て」


「ありがとう。よろしく頼みます」


 太郎が用事を済ませて錬金術師の家に向かっていると、突然背後から声がした。


「本当に友達が多いね山田太郎は」


「あ、ゆっけ錬金術師の家で待ってると思ってた」


 ゆっけは暗殺者をやっていた時の癖で気配を消して近づく癖が体に染みついているのだ。


「何かさ、太郎は人に信頼される何かがあるね」


「そうかな…自分ではわからないな」


 錬金術師の家につくと、皆でトランプの大富豪をしていた。ゆっけも残ってたら皆と遊べていたのにな。


「あ、太郎さんお帰りなさい」


「太郎さん聞いて私ね、5連勝で大富豪」


「太郎さん今日はありがとうね。何かドキドキして楽しかった」


 冴子、愛、杏理が温かく出迎えてくれた。錬金術師はうなだれていた。おそらく大貧民だったのだろう。


「明日こそ勝ちますわ!」


「それでは、また明日来ますね。宜しくお願いします!」


「ええ、山田くん。明日も頼みます。鈴によろしくね。例の計画は着々と進んでるって伝えておいて下さいな」


 こうして、初めての大人数での冒険が終わった。見たことない額のゴールドが手に入った。それを皆で山分けすると、こんなに沢山貰っていいのかと冴子達は大いに喜んだ。ハイポーションの材料がひとつで500ゴールドというのは大きかった。10個あったので5000ゴールドだ。これだけでかなりの額になる。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ