異世界生活6日目開始
上原達矢と三浦千夏は疲れていた。巨大ネズミの大群が夢に出て来て、悪夢を見ていても熟睡できなかったのだ。やっとの思いで仕事を終えて、夕食を食べる。
「太郎ちゃん凄かったね。恐れる事なく、止まる事なく、巨大ネズミを次々倒してた。ふつうさ、息切れしたり、5匹同時に飛び掛かられたら焦ったりするじゃん? それなのに動きが更に加速するっていうかー」
「それそれ! 山田先輩って何なんだろうな。絶対普通の戦い方じゃない。何であんな早く動けるんだ。よし、少し真似してみようぜ」
ふたりはシャドーボクシングのように太郎の動きを再現してみた。
「えい!」
「おりゃー!」
ふたりは仮想巨大ネズミを太郎の真似をして倒しまくる。だが、回避のイメージだけ上手くできなかった。
「無理だー! 回避するのが自然すぎるんだよ、あの人は。そして回避してから瞬時に攻撃。昨日なんか回避しながら他の敵も倒してたし。化物だよな」
「でもさ、でもさ! 見てたら勉強になるよ。私達も時間を掛ければ少しは近くなるって。じゃ、続けて練習してみよう」
「おう! そうだな。俺達運動神経悪くないし」
こうしてふたりは丸めたポスターと鍋のフタを使って異世界戦闘の練習をした。今回の敵はゴブリン。ふたりで交代で攻撃と回避を入れ換える。一汗かいたので、ふたりは一緒に風呂に入り異世界に出かける準備をして軽く仮眠を取った。起きてすぐ、異世界バスが来るのを待っていると、影の薄い二人組が先にバスを待っている。
「あなた達は異世界から早めに卒業したらいい。私達みたいになるわよ」
「ああ、俺達みたいに死ぬなよ。じゃあな…」
と話してゆっくりと夜の闇に消えた。
「ゆゆゆ、幽霊!?」
「そ、そうみたいだな…金ためて武器買おうと思ってたけどよ、ゴールドを換金して、こっちで店でも持とうぜ。幽霊の言う通り」
「うん。そだね、達矢。居酒屋でもふたりでやる? 私、そろそろクビになるかもだし。オーナー節約とか言ってさ、食器洗うとき冬でもお湯を使わせてくれないのよ。文句言ったらさ、他の皆も我慢してるってさ、皆を代表して言ってるっていうの!」
「あのオーナー節約とか言う割には金使い荒いし、男にDVされて別れる事多いし男運もないよな。千夏いつもお疲れ様。よし、異世界の金を大事に使って店でもやろう! そうだよ。異世界で最後まで生き残るのは太郎くんみたいな特殊な化物だけなんだよ」
ふたりは幽霊が言うからにはそんなんだろうと妙に納得した。死んだ経験がある人の言うことはひと味もふた味も違って感じた。そんな決意をしていると異世界バスがやってきた。ふたりは背筋がざやさわ寒くなったのを感じた。




