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ヤギさん家にお便り

作者: 夜朝

森の一軒家

白塗りの壁に

緑の屋根

木製フェンス


開けたドア

大きな隙間

こっそり覗かせる顔

見つめるポストは赤い色


制服姿のクマさんが

大きな袋を

小脇に抱えて

やってくる


ぽとり

落ちた音

たたた

走る足音


ぱかっと開いた

フタの向こうに

街の広報

クーポンブック


ポストの中身を

丁寧に取り出して

最後の最後に

封筒を発見


あーん


頭上にハートマークを飛ばして

口を大きく開けて

かじり付こうとした白ヤギさん

すんでで思い留まる


ふるふる

首を横に振り

大事に大事に

開封作業


ヒヅメに挟んだ1枚目の便せん

じっと読み込んで

また

ハートのマーク


切手を買い求めて

白ヤギさん

封筒の角へ

ぺたり


そこでふと気づいて


気が早いわ


首を横に

ふるふるり


気を取り直して

2枚目の便せん


『タマネギ』


書いてあって

白ヤギさんは慌てた


「!?」


ぱたぱた走って

お荷物チェック


木桶

ひき肉

にんじん

しいたけ

ケチャップ

ソース

バター


カバンに入れて

出かけていく

森を超えた山の先

封筒の送り主のおうち


とんとん


たのもう


返事を待たずに

ドアを開けると

部屋の中には

両手で目を覆っている

黒ヤギさんの姿

台所にはタマネギのみじん切り


白ヤギさんはカバンをおろすと


ぎゅ


黒ヤギさんを抱っこした


その後

持ってきた木桶に

熱めのお湯をもらって


ちゃぷん


両手をお湯の中

じっと待ってから取り出すと

今度はその手を

黒ヤギさんのおめめに当てた


ほかほか

しっとり


黒ヤギさんは

寒くなりすぎて

固くなったおめめで

泣きたいのに泣けない時

タマネギのみじん切りをするのだ


白ヤギさんの

ほかほかになったおててを

好きにさせている黒ヤギさん

おとなしく自分の両手はおひざの上


…………


どうしたのかな

聞こうとした白ヤギさん

何となく思う

送ってほしかったものが

まだ入手できていないのだろうか

手違い行き違い

宛先の勘違いとか

それとも


ちゅ


白ヤギさん

黒ヤギさんの目はふさいだまま

その鼻の頭に自分の口元を寄せた


混線なんてよくあること

泣かない泣かない


もう一度


ちゅ


とする


その後は白ヤギさん

せっかく刻まれたタマネギ

活用しようと思って

持ってきた材料と一緒に

ことこと煮込むミートソース


ほかほかの

パスタにかけて

召し上がれ

仕上げに粉チーズ

パセリも美味しいよ


ぱくり


「…………!!」


どたばたじたばた


ようやく落ち着いたはずの

黒ヤギさん

真っ赤になって

右往左往

まさに涙ひまなし


あらやだ

チリペーストとケチャップ

間違えちゃった


白ヤギさん

慌てず騒がず

勝手知ったる冷凍庫から

アイスキャンデー1本

そっと

黒ヤギさんのお口に差し入れた


黒ヤギさんが

落ち着いてくれたら

大事に大事に

頭を撫でたりしようと思いつつ


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― 新着の感想 ―
[良い点] 暖かい情景がとても素敵でした。 「タマネギ?どうしてだろう?」 その後の展開で心温まります。 こんなに素敵なお話書いてみたいです。
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