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天国

作者: 平木隆太

こんな感じのことって往々にして、ありますよね?

人は死ぬと天国か地獄に行く。地獄に行った者は現世の業に縛られ、等価の罰を受ける。天国に行った者は悠々自適な生活を送ることができる。望んだままの生活、とまではいかないが、少なくとも基本的で文化的な暮らしにおいてに困ることはない。

「ここではそのサンプルとして、林田浩一の天国ライフを追いかけてみたいと思う」


 林田浩一。享年64歳。職業、配管工事。性別、男。天国ライフ7年目に突入。生前は妻貴美枝を早くに亡くし、再婚することなく男手一つで息子2人を育てる。妻への一途な愛情から、他の女性を好意を持って抱くことはなかったが、時に風俗へお世話になることはあったようだ。少々面白味に欠けるがこれといった罪はない。

 浩一は朝起きると、歯を磨き朝食の準備をする。これは生前からの日課だ。朝食を食べ終えると仕事に出かける。今日は天護区役所の水道管の工事だ。昨日から修繕を始め、ある程度片はついている。今日はチェックをすれば仕事はおしまいで、久しぶりの休みが取れる。家に帰ると冷蔵庫から缶ビールを取り出す。昼から酒などと妻の小言は聞こえるが、仕事の後のキンキンに冷えた一杯は譲れない。文句を言いながらも貴美枝はおつまみに合鴨のロースをスモークにして出す。浩一の大好物だ。

 何か緊急の電話が入った。浩一は慌ててつなぎを着て天護区役所に走る。工事した水道管に異常があったようだ。点検を済ませ、自身の過失によって異常が起きたと区役所に謝り、少し落ち込みつつ帰路につく。午後3時頃、そういえば、合鴨はほとんど食べられなかったし、お昼は緊急が入ってしまったので食べていない。せっかくだしいつもと違う場所で少し食べて行くかと思い、近場の食事処を探す。しかし結局はいつもの溜まり場となっている居酒屋で済ますことにしてしまう。ちびちびと日本酒をすすっていると、だんだんと見慣れたメンツが集まってきて、酒盛りが始まり、妻や子供、仕事についての愚痴が始まる。そうして顔を赤くし、千鳥足で家路に着くと時計は既に23時を回っていた。風呂に入り、歯を磨き、妻に小言を言われながら、浩一は布団に入る。また明日も仕事がある。


「どういうこと?」

「全くもって不思議だよ」

 天護区役所、人間アナリティクス事業部では妖精たちが神妙な顔つきで話し合っている。

「なぜ、この人間は天国にいながら、まるで現世にいるかのような生活をしているの?」

「待って、そもそもなんで居酒屋なんてものが天国にあるんだい?」

「というか、水道管の工事なんてしなくても、ここは天国なんだから、壊れることなんてないし、不調とかもありえないんだよ」

「謝るなんて行為も全然必然性がないよね」

 天国では、死んだ人間が良質で優雅な死後を送れるように様々なサービスが実施されている。食べ物は何かを食べたいと言うことでそこに現れる。仕事なんてしなくても妖精たちが放送するテレビを見て一日を過ごせばいいし、何もしないでゴロゴロしていてもいい。愚痴なんかが溢れるはずがない生活を一人一人に保障しているのだ。

「僕たちは、僕たちが思っている以上に人間という生き物の性質を知らないんだよ」

「つまり?」

「つまり、わからないけれど、僕たちは彼らのことをもっと勉強する必要がある、ということだね」

「じゃあ、次のサンプルはこの人だ。はいはいみんなスクリーンに注目だよ。もっと人間を勉強して、より天国らしさを彼らに提供するにはどうしたらいいかを、みんなで考えよう」


 スクリーンに映像が投影される。パラパラと文字が現れる。

「白石絢香。享年43歳。職業、郵便局員。性別、女。天国ライフ2ヶ月。生前は・・・」

なんだか不思議に、終わらせたかったんです。

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