指導開始
「この世界では──」
マーリンが黒板に地図を描きながら、この世界についての詳しい説明をしている
現在絶賛座学のお時間
ここはあえてはっきり言おう
暇だ
しかも1番辛い、何もできないという無駄な時間を過ごす最も辛い暇を今経験している
ちなみに隣に座っているハツメを見てみよう
ピンと張った背筋、凛とした表情、そして閉じられた瞼
寝てますね、完全に寝てますよ
ずるい、俺だって寝たい
だがこういう時に限って何故か眠れない
あと寝たら寝たで前で講義してるマーリンやセリアに後々嫌味言われても困るしな
だがやはり歴史の話は興味あるやつ以外は聞いてても暇なのである
勇者たちも自分たちとは違うこの世界の歴史と聞いて興味津々だったが次第にそれも薄れてくる
魔王や魔人あたりは結構興味示されてたんだけどな、建国の歴史とか話し始めたあたりから首がカクンと揺れる人間が増えてきた
「さて、堅い話はこれくらいにしておきまして。次はスキルや魔法の話をしていきましょう」
マーリンがパンと手を叩いて、話題を切り替える
スキルや魔法、そういった瞬間に勇者たち全員が元気になった。勇者たちみんな自分たちが持っている特別な力を知りたがっているわけか
「ではまずは魔法から。魔法には様々な種類が存在します、まずは魔術。この世界の魔術には様々な属性が存在します。基本となる属性は火、水、風、土の四属性です。多くの人がこの4つの属性のうちどれかを所有しています」
火、水、風、土の属性で生み出した球を順々に出していく
「ちなみにですが、持てる属性は基本は一人一つです。私のようにスキルの関係で複数持てる人間も存在します」
さらにちなみにだけどマーリンが使える魔術の属性は全て、付け加えればこの世の全ての魔術があいつには使える
全ての魔術を司る魔術の王、それがマーリンだ
「またこのような魔術とは別に錬金術や呪術、精霊術といったものも存在します。それら全てを総じて我々は魔法と称しています」
マーリンは魔術の王でありながら錬金術や呪術といったすべての系統の術を完璧にマスターしている魔法使い
ゆえにマーリンは賢者と呼ばれている
「私は魔術の専門、そして隣に立つセリアは錬金術を専門としています。みなさんの中にも魔法使いとなる才能を有している人達がいると思われます」
マーリンがニッコリとそういうと勇者たちから歓喜の声があがる
マーリンはあぁ言ってるけど、もうあいつの中で勇者の中で誰が魔法よりの才能を持ってるか目星はつけてるんだろうな
資料を見たが既にかなりの選別が行われていた、あそこまで細かなことを一日たらずでできるのはマーリンくらいだろう
それにあいつが自分以外のあんな大きな選別を受け入れるのはありえないしな
まぁ才能なんてもんはそんな簡単に見分けられるものじゃないから、マーリンの選別眼から外れたけど魔法の才能があった人間がいるかもしれない
剣は振らせりゃその太刀筋で素人だろうが玄人だろうが才能有無ってのはだいたいわかるもんだけど、魔法はそんな簡単にはわからないからな
とはいっても魔法を大して扱えない俺は才能なんてものは例えそれがダイヤだとしてもわからないけどな
勇者たちがもっと他の魔法を見たいというので様々の属性の魔法をみせる
「ちょうどいいですね、後ろに座ってくれているギルは無属性魔術の天才です。無属性魔術は通称物理魔術、簡易的な物体を生み出す創造魔術です」
勇者たちが後ろを振り向き俺に注目する。そしてマーリンは俺ににっこり微笑む、なるほどつまりやれってことですか
俺は立ち上がり、手に魔力を込めて無属性魔術を発動させる
形は一般的に剣、俺は生み出した半透明の剣を握り勇者たちにみせる
「あのように無属性魔術は物理的物質を型どり発現させる魔術です。彼のように騎士達は無属性魔術で武器を生み出したり、そして騎士ではない一般市民もこのように生活品を生み出したりと様々な応用性を見せる魔術です。無属性といって侮ることはできません」
応用性はあるが特殊性がなくシンプルだからそれが欠点だけどな
個人的にはシンプルな方が使い勝手がいいから無属性でよかったと思ってるからな
魔術の才能持ちで騎士にいるやつらは大抵無属性だ
中には魔法剣士として普通に無属性以外の魔術だったり錬金術とか精霊術を巧みに使いこなすやつだっている
「みんなの注目の的、目指せ人気者」
「......起きてたか」
「うん、視線がこっち向いたから」
どんな達人だよ、お前は
ハツメは気持ちよさそうに「よく寝た」と身体を伸ばす。自由気ままでお兄ちゃんはなによりです
その後もセリアが簡単な錬金術を見せたりなど、魔法がいかなるものかを説明する
理論の話をされても勇者たちには何言ってるかわからないだろな。もちろん俺やハツメにもとってもチンプンカンプンだ
魔法が使えるかどうかは感覚の問題だが、そこから先を伸ばすには理論を理解しなきゃ意味無いからな
今のマーリンの話を最後まで興味もてた人間はかなり魔法の才能があるといってもいいだろう
そして話題はスキルの話へと移る
マーリンがまず話すのはスキルという存在について
ただこの話は信仰とかに近い話だ。神が与えたものという意見が一番多い、実際その考え方が1番腑に落ちるからこの考えが主流とされている
ただ神がいるかどうかというか話に終わりがないことを考えると神様が与えた理論が正しくないことは証明されてしまうのが悲しいところだが
もちろんマーリンもそれを話す。そして「ですけど」と次に話をつなげる
「スキルとは時にこの世界の物理法則、そして魔法法則をねじ曲げるような超自然的な力を発します。このようなスキルという存在を世界のシステムに組み込むことができるような存在はどのようなものかと考えると...やはり神様という考え方が1番正しいように考えられます」
これも一般的な考え方だ
ちなみにこれを説明してるマーリンは神の存在を信じていない。信じていたとしても「この世界を見てるだけの存在に僕は興味ありませんよ」と言うだけだ
「さて、みなさんの中には昨日スキルを使ってみようと試した人がいるかもしれません...ですが使えなかったと思います」
マーリンの話にうんうんと頷く人間がいる
やっぱり試そうとする奴がいたか
まぁ自分に特別な力があるってわかったら使おうとするのが普通だよな
この世界だろうと異世界だろうとそう人間の考えることは変わらないかもしれねぇな
とりあえず俺たちの知らないところで能力を発動してる勇者が出てこなくてよかったよ
スキルの発動にはコツをつかむ必要がある。そのコツを掴むのが結構大変で、最初は使おうと試しても上手く使用出来ないことが多い
最初から使えるやつは感覚的にコツがわかってるんだ。まぁその場合はスキルとスキル保有者の相性がかなりいいってわけだ
「スキルを発動するのは己が持っているスキルを深く理解し、真に己のものにすることが大事なのです。一人一人が自分のスキルを発動させる鍵が存在し、その鍵を見つけることがスキルを使う第1歩になるんですよ。ですから昨日使ってみようとして落胆した人も心配いりませんからね」
マーリンが俺の考えていたことをかっこいい言葉で説明している
マーリンが言ってた「鍵」が俺の言っていた「コツ」になる
スキルの強度は己の意志の力に左右される。いわば精神力がスキルの強度になるわけだから、精神とスキルは密接な関係にある
だからスキルを使うには己の心の中にある鍵を見つけ出さなければできないって言う考え方だ
そんな難しい話にしなくてもいいと思うんだけどね
俺の師匠なんて「こうやって...こう!!」みたいな感じで俺にスキルの使い方教えてきたし、なんなら俺それで出来ちゃったし
あんま難しく考えすぎないこともスキル発動の1歩に大事なことだと俺は思います
「みなさんが持っているスキルはこの世界においても強力なものが多く、誤って発動した場合、その本人やその周りに多大な被害が出る恐れもありますので、少しつまらないと感じるかもしれませんがスキルの使用を挑戦するのは私やギルといった指導役がいる時にしていただきたいと思います」
暴走なんかされちゃ困るからね
しかもここは王城だし、そうなったら全部俺らの責任問題で首飛ぶし
いや、この場合ほんとに断頭台にあげられて首飛んじゃうからね
賢者であるマーリンの首は飛ぶ可能性は低いけど、いろんな所で恨み買ってる俺の首は綿よりも軽く飛んでくからほんとに恐い
「さて、そろそろいい時間ですので今日の座学はここらへんで。このあとはお昼休憩を挟んで外での戦闘訓練になりますのでよろしくお願いします」
気づいたら時間が経っていた
午後は戦闘訓練...つまり、俺の仕事か
......そういえばまったく内容考えてなかった
「まぁ飯食ってれば思いつくか───」