絶望は希望を貪る2
少しだけ外にいるつもりが気持ちを少しばかりか晴らすために数十分タナトスの街中を歩き回ってしまった。いつも通りパーカーのフードを被りなるべく周りに表情を悟られないようにしていく、猫背で下を向いて前髪が顔をさらに隠す表面積を増やしていた。
「ふう」
ガチャッ、「ただいま、ラフター」猫背を直し見上げた景色は完全に地獄絵図と化した仕事場、ラフターは血まみれのまま壁に凭れ、アレッタの姿がなくなっていた。
「おい!おっさん!しっかりしろ!何があった?」
病が再発した彼女が自分で立てる筈がない。あちこち見渡して何か痕跡が無いか確かめてみる、如何にも取ってくださいと言わんばかりの場所に手紙が挟まっていた。すぐさま手に取り文面を確かめる。
―
お久しぶりだね。ロレンツ君。
君の大切なお友達は僕が預かっている
病でかなり弱っているみたいだけどまだ意識はあるから安心しなさい
この屑篭の南西にある洞窟の奥地。リンボで彼女と共に僕は待っている
この状況下で君がどう魅せてくるのか楽しみにしているよ
スタヴロス=ティシュア
「ふざけやがって…」
義手でぐしゃっと手紙を握りつぶし、二度と消えることのない乱雑な山と谷の折り目を残していた。
しかし、リンボは流石に行ったことがない。すこしマフィアに場所を聞きに行くついでにラフターの具合を診てもらうか。ラフターは昔、自分はマフィアに友人が多いと言っていた。タナトス中の情報の集中点、そこに行けば有益な何かが手に入りリンボについて色々と教えてもらえそうだ、まさに一石二鳥。
ラフター曰くアレッタはもう永くは無いと言っていた。しかし重症の中年男の手当てをしなければ、ひとまずマフィアの本拠地に向かった。彼の友人に治療を託してアレッタを救いに行こうと考えたのだ。
中年のガタイのいい男をマフィアの本拠地へと脚を運ぶ。急げ、急げと脳からの命令信号が疲労など省みるなと言っているようだ。
「ロレンツ…」
タオルを絞ったような苦気な声が鼓膜を優しくたたいた。
「無理して喋るな、おっさん」
「リンボに行くつもりか…」
「当たりまえだろ、何言ってやがる。これからアレッタを救いに行くんだよ、俺が行かないで誰が行くんだよ」
「それなら、これを持っていけ。昔俺が所持していた銃と銃弾だ。」そう言って12口径のピストル銃、5,6発の弾を褐色肌の掌に転がす。
「…ありがとう」
タナトス一巨大な建物の門の前に立ち止まった。辺りが慌ただしく門を潜る人の群れ、きっと“犠牲の十字架”スタヴロスが現れて対応に追われているようだった。
今本拠地から外に出てきた3人に声を掛けるとイラつきを見せたまま鋭く睨みつけられた。こんな忙しい時にと顔に出ているがラフターの姿を見た途端に様子が激変する。
「ラフター?」「ドグか…久しぶりだな…」「呑気に世間話に浸る暇はないぞ、どうしたんだ」
ドグと呼ばれた男は彼が負っている傷の具合を見やる。
「スタヴロスに刺されたんだ、暫く看病してやってくれ」ロレンツが話すだけでも息苦しそうなラフターの代弁をする。
「おっさん、俺は先に行っているぞ」
「ああ、好きにしろ」
「おい!待て!」
制止する声すら耳に入れることなくロレンツはリンボの方角へと向かっていた。
「いや、行かせとけ…」
「しかし、ラフター」
時間が無いと急くように友の反論を遮った。
「それと十字架を正真正銘、葬るぞ。これ以上犠牲者が出る前に…」
急な提案に薄めていた瞳をカッと見開く男は正気かと尋ねかけるような眼でラフターの硬くなった表情を見た。
「今から言う作戦を説明しよう」




