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廃れ大地の鎮魂歌  作者: ハブ広
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十字架の悪夢4

父親に捨てられて3年の月日が経過したある日。寝ぼけ眼でリベラの役所にいる職員と談笑しているグリアに視線を向ける。謎は解明されていないまま記憶の片隅にも置いてけぼりにされて忘れられているのだ。先生に対する不信感は拭い切れないがロレンツは何も繋いで置ける紐がない以上孤児院に縋るしかない。

 見慣れた人の死体、新聞紙、食べられる部分を勿体なく残した生ごみ、机などの粗大ごみ、ゴミの分別を済ませてひと段落していたころだ。人の死体、生ごみ類は廃棄洞窟の奥底へと入れ込んではいけないという決まりがあり、それらは全て焼却炉の中へとポイだ。

「ロレンツ!」「どうした!?」遠い距離を離れて作業している同年代の子供の声がボールのように飛んできて大声で投げ返した。すぐさまに会話の続きとして返ってくる。

「ちょっとこっち手伝ってー」

 鼻筋から顎まで包み込んだ菱形にも楕円にも似たような形、メガホン代わりに付けた両手に挟まれた口から出された子供の意見を聞き入れて今ある作業を中断する。分別用のゴミ袋と持っていた空っぽの缶詰を放置して呼ばれた方向へとロレンツは向かった。

その時だった。

ドゴォオオオオン!!破壊と共に招かれた轟音と火焔が辺りのものを吹き飛ばし、焦がしながら噛り付いていく。ロレンツが作業していた隣の工場で爆発事故が起きたのだ。コンクリートでできた壁が圧力、熱風により風穴が開く。

「ロレンツ!!!!」

大きく吹き飛ばされ、彼の体が灼熱の環境下で熱されたアスファルトの上にごろりと転がった。

―。

 爆発事故が起きて数日と十数時間、ロレンツが目を覚ますと病院内だった。半目を開いて病室の天井と睨めっこをし続けていた。暫く自分が何処にいるのかよくわからなかった。「ロレンツ君!」聞き覚えのある声…グリア先生だ。

「先生」「よかった、目を覚ましたんだね」視界内には映ってはいるのはグリア先生と医者、聞き耳を立てればクロエたちがいるのも確認できた。

何か違和感があった。今迄と何かが違う、夢から一気に現実へと引き戻されたようなものだろう。視界がやけに狭い、利き手で右目を触ろうとしたが、右肩からそのさきが無い…。「!?」右腕が無くなっているのが分かった。

「何だよ…これ…」

「爆発事故で右腕が吹き飛んだんだよ」

「そんな」今ある事態をうまく呑み込めない、そうであっても仕方のことだと考える。今まで通り当たり前の如くそこにあった物が急に紛失するとなると巨大なショックが胸の内を叩きつけてくる感覚が伝わってきた。こんな時は嫌なことばかりしか浮かんでこない。マイナスとマイナスが掛け合わさってさらに気分をどん底に引きずり込む。

入院して数日後、グリア先生が見舞いに来ていた。

 気分が落ち込んでいる俺のことを察して色々なジャンルの話を見舞い品として持ってきてくれた。ロレンツがいない間にあった面白い話、世間話などなど耳を傾け続けていた。

「ロレンツ君、こんな話を知っているかい?」

「何でしょう」

「地下都市タナトスについてさ、このリベラの地下に広がる都市だよ。」

「タナトス…」

「遥か昔大戦から逃れるために人々が作った都市さ、チェスティノに繋がっている通路を通れば暗いドーム状の洞窟、人やゴミの終着駅といった方が聞こえはいいかな?価値亡き者達が自分の存在意義を探してついた先がその地獄。まあ、救いすらない天国よりはマシだろうね。」

「行ったことがあるのですか?その都市に」

興味津々で固められた質問だった。

「あるさ、文字通り芥箱の中みたいだった」

 侮蔑を含ませた軽はずみの悪口が飛んでいく。彼はそうなんだ、と自分を納得させて視線を天井の方へと滑らせた。無機質に広がっている視界を焦点すら会わない映像で暈す。

 世界って広いんだな、小さい頃にクロエたちと一緒にみた世界地図を思い出した。知らない土地、知らない海、いつか行ってみたいね。みんなで話し合っていたこと…。窓の方へと顔を逸らして強い日差しが容赦なく降り注いでいるリベラの都市をじっと眺めていた。

 それから数日、退院を済ませたが利き腕は未だにそのまま。片腕を失った以上は仕事をすることもできない。暫くは残された左手で辛抱だ。義手でも欲しいくらいだが俺はそれに手が届くほど金はなかったし、衣食住を用意してくれるグリア先生に無い物ねだりする訳にもいかなかった。左手はまだ慣れないが皆の手助けもあって徐々に慣れていったような気がする。

このまま続くと思っていたロレンツの日常は急激に幕を下ろすことになるとは孤児院の子供たちは知る由はなかった。

暗雲が星の輝きを遮るように広がっている夜、彼は不規則に揺れる床の上で夢から覚めていた。眠気で閉じかける瞼をこじ開け、当たりの景色を見渡しているといつもある部屋の模様はなくトラックの荷台だ。駆動音が止み運転席から出てきたのはグリア先生だった。


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