十字架の悪夢3
孤児院に住み始めて数十と数か月、大体の施設内の場所は把握し、孤児院にいる子供はロレンツを含めて10人。歳はそこまで離れていなかったものが殆どだった。度々、引き取り先が見つかったと言って去っていく子供も多かったが、たまに不自然に子供が失踪することがある。先生は困った子だね、どこに行ったんだろう、などと言っていたもののどこかに逃げていく程追い詰められる過酷な虐めは長い間住んできて一回も見たことがない。
幼き好奇心を止められず、先生に質問してしまった。
「先生」
「うん?どうしたのだい?ロレンツ君」
はにかんだ様な笑みを浮かべてグリアは返答する。
「ジェシーはどこに行ったんですか?」
「うーん、どうだろうね、あの子も先生を困らせることが好きな子だね」
困ったような顔を浮かべてジェシーの名前が記されたノートを見つめる。ふさふさの髪が生える頭皮をポリポリ掻きむしっていた。いつも仲良く遊んでいた彼のことが心配なクロエはひどく落ち込んでいる、
「分かりました」不確定な真実に満足できないが無理やり納得させた。
その後、クロエとロレンツは部屋にこもって話し合っていた。ジェシーや他の子供達が消えた理由、時間帯、動機、その他の可能性。
「虐めもないし、里親がやってきた覚えはない」「もし出ていくとしたらお別れ会とか開くものね」「…クロエ」「何?」「信じたくはないけどグリア先生が」「そんなこと、あるはずがないよ。だったら他の皆も…」想像するたびに嫌な思考回路がどんどん広がっていく。こんなこと考える必要性あるのか、皆を疑うなんて。だけど俺達年長者にとってジェシーは下の子たちから人気者だったし、憎んでいる人はいなかった、外見だけの問題だけかもしれないが考えすぎかな。二人は一度深呼吸をして乱れた呼吸と空気を整えた、最悪の可能性は望みたくはないが運命の賽子はいつだって悪戯に狂う。
グリアが出かけている休日のある日、ロレンツは調べ物と偽って孤児院院長であるグリアの部屋に潜り込んだ。換気の為に微かに開かれた窓を全開までこじ開けて小さな体を侵入させる。真っ先に探したのはアステール孤児院に暮らす子供たちの名簿だ。机の上に放置された画板に挟められた顔写真が張り付けられた一人ひとりの個人情報が記された紙、ジェシーの名前が無いか必死に探し漁る。ロレンツ、クロエ、エレイン、ハリー、ロビン…。一通り探してみてもジェシーの情報が載っている名簿が無かった。
「…」本当に彼はここから姿を消してしまったのだろうか、天涯孤独且つ行方不明の子供を探す気にもなれないグリアに不信感が芽生える。あなたは俺達のことを心配していないのか。
すっかり日も暮れて月が弧状に流れる銀河の上を東から西へと流されていく時間帯でも友への思いが溢れ返って止まることを知らない。足跡すら残さずにいなくなってしまった君はどこに行ったの?いるなら手紙くらい寄越してほしいよ、ロレンツはその夜悲しみと消失感で枕を濡らしていた。




