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廃れ大地の鎮魂歌  作者: ハブ広
13/27

十字架の悪夢2

 孤児院に住み始めて三日目、大体のルールは頭の内に入ってきた。まずは規則についてだ。ここは毎日7時までに起床し皺だらけになったシーツや布団を畳むことが一日の始まりである最初の作業だ。その後は先生が毎日作っている料理を食堂に全員集まって食器を乗せたお盆を運んでから全員に食事に入る。その後は週に3、4日あるゴミ捨ての仕事があるのだが、リベラから排出された廃棄物をトラックで運んで廃棄洞窟まで捨てに行くというもの。まだ子供の為長時間労働させるわけにもいかず、5時間ほど働けば後は先生が片付けてくれる。

 そして今日がロレンツの初仕事だった。

「ロレンツ君のサイズあるかな?あると良いんだけどね」

 グリアはロレンツを物置部屋まで呼び出して服装を漁っていた。より新品のものを使わせてあげたという一心だっただろう。真新しい作業、手袋、靴を用意して彼に着替えさせて満足そうな表情が痛々しい火傷が残る顔面に出ている。

「さて仕事に入ろうかな」

 合計8人の子供たちを8人乗りの車に乗せて仕事場まで向かう。今回はリベラ南東部のごみ収集とのことだった、彼らはゴミ袋が散乱している一帯に辿りつき、グリアが乗っているトラックの荷台へと限界までの積載する作業が始まった。

「ん?うわあああああ!」

「どうしたの?ロレンツ」

 ジェシーが叫び声を聞きつけてロレンツの元へとやってくる。腰抜かした彼は震え交じりに恐怖が噴き出る震源地を指さした。

「見てよ、あれ…」その先にはまだ新しい人の死体だった。他のごみに混じって虫が集っている。完全に乾ききっている瞳が暗いオーラを帯びてこっちを睨んでくるのが恐怖で仕方がない。

「死体だね、この仕事やっていると慣れてくるから大丈夫だよ」そういう問題なのか、ロレンツは密かにそう思った。

 リベラで死体なんざ見たこともなかったから尚更だろう。視野に入っていなかっただけで実は人間が少なからず命を繋ぐ紐をその手で断ち切って切るのだから。リストラ、虐め、仕事での過剰なストレス、人によって崖の底へと突き落とした元凶は様々だ。ゴミと共にこういう死体も回収しないといけないのかと思うとかなり憂鬱になる。さっきの生気もない視線が忘れられなさそうだ。

「絶対夢に出そう…」「悪いこと想像しない方が良いよ、寧ろそういう物引き寄せちゃうから」「わかった、前向きに考えないと、前向きに考えないとブツブツブツブツ…」

 クロエのアドバイスを元に色々なことを頭の中で作りあげる。仕事終わりには何をしようか、今日の先生の作るご飯は何だろうかなど子供が考えそうなことを考えてみる。

 作業中、先生に誰かが声をかけたのが視界の片端に写り込んでいた。首を少し左斜めに動かすと友人かどうかはよくわからないが誰かと喋っているのが見えた。帽子を被った作業着姿の男、手にはビニール袋で包まれた何かがある。

「みんな、休憩しようか。お菓子の差し入れも貰ったし」

「やったー」

 トラックや建物の日陰となっているところ腰を降ろして甘いお菓子に噛り付く子供達、口の中にクリームの甘い味が広がっていく、美味しい…。

 育ち盛り真っ最中の子供たちは真っ先に平らげてしまう。差し入れに貰ったお菓子が余ったようでグリアが子供たちに残りのお菓子食べたい人と皆に呼び掛ける。まだお菓子があることを知って嬉しそうに飛び跳ねる子供が6人、静かにお菓子を食べ進めているロレンツやクロエ含めた4人。クロエは小声で素朴な質問してきた。「食べたい?食べたいなら私が持って来るよ」「いや、大丈夫」食べかけのお菓子を片手に縦にした手を肘から動かして要らないよと身振り手振りで示した。「わかった」「クロエ、俺も行くから待ってよ」ジェシーが彼女の後をついていく。

 拾ったごみが鱈腹詰まったトラックの腹、グリアはそのまま乗り込んで廃棄洞窟の方角へと向かっていき捨てに行く。子供たちは作業の続きに入る。年少の子たちが好き勝手動き回ったりしないように年長者たちが眼差しをぎらつかせて監視する、ロレンツもその範囲内に入っていた。定時である12時を過ぎたあたりで作業は終了。次々とトラックの荷台へと登り、鉄の板の上で体を休ませていく、アスファルトからゴツゴツした砂利道へと道が変化して一気に座り心地が変化する。

―。

 働いた後は少しご飯を食べて勉強の時間だ、知識の成長期を迎えている子供たちはグリアからもらった教科書を参考にノートに筆跡を残していく。好きな分野から苦手としている分野にまで手を伸ばして海馬の図書館を次々に改築させていく子供達。グリア先生は言っていた、「これはこの残酷な世界を生き抜くための武器になるものさ、備えあれば憂いなしと東洋の諺があるように装備は持てるだけ持っておかないといけないよ」

 孤児院での一日はこんなものであろう、休みの日は皆で出かけたり、遊んだりしている。こんな些細な日々が永遠に続けばいいなと俺は思っていた。

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