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王子様は困ったように笑う

1話3000文字前半を目安にしてるので、長くなったら削ってます。

 部活動見学5日目、大体の部活とサークルは見て回ることが出来たと思う。

 この5日間で、攻略対象者だった人達と接触できたかというと、結果はゼロ。

 こんなにも上手くいかないものなのか。それとも、まだ始まったばっかりだと気負わない方がいいのか。出来れば後者であってほしい。

「やっぱり弓道部が一番すごかったね」

「'学園の王子様'って名前は伊達じゃなかったわ」

 遠くから眺めるだけだったけど、1人だけ新たに攻略対象者だった人の存在を確認出来た。

 学園の王子様と呼ばれている倉本由春、私達の一つ年上の先輩。文句の付け所がないくらい顔立ちは整っていて綺麗で、しかも金髪碧眼で、スラリとした体躯に高身長。噂では文武両道で出来ないことなど何もないらしい。

 呼び名に相応しい、絵に描いたような王子様だ。そんな人が身近にいたら、女子達が色めき立って騒ぐのも無理はない。


 今分かる、倉本先輩のゲームとの相違点は所属している部活だ。ゲームでは、先輩は帰宅部だったけど、実際には弓道部に所属している。

 そして、弓道部の見学者、いや観覧者?の数は他の部活に比べて群を抜いて多かった。

 今は新入生向けの見学期間でもあるから割と自由だけど、普段は弓道部だけは見学券が配布されていて、その券がないと弓道部の見学は出来ないらしい。意味が分からない。

 この学校、ゲームの攻略対象者以外にもイケメンはそこそこいるみたいで、ファンクラブなるものがいくつもあるらしい。

 中でも倉本先輩のファンクラブは規格外で、ファンクラブのメンバーは学外の人も少なくないらしい。規模がすごい。

 少女漫画だったら、ああいう人と恋をして、色んな障害を乗り越えて、胸キュンなハッピーエンドを迎えるんだろうけど、ここは現実だから是非ともお断りしたい。噂だけでお腹いっぱいです。

 ゲームでは、倉本先輩は実は腹黒っていうキャラクターだったらしい。ならいっそこのまま関わらないのが幸せなんじゃないの?腹黒って厄介そうだし。

 まぁ、恋をするのは私じゃなくて花鈴なんだけどね。





「何度言ったら分かるの!?倉本くんに弁当を渡すのはダメよ!!」

「何でですか!?先輩だって差し入れしようとしてたじゃないですか!!」

「私のこれはクッキーだからいいの!!」

「じゃあ、私のお弁当だっていいじゃないですか!!倉本先輩は私のお弁当を食べたいに決まってます!!」

「そんなわけないでしょ!!」

 うわ、修羅場だ、修羅場。分かりやすく修羅場だ。

 学園の玄関口のど真ん中で、1年女子と3年女子が倉本先輩を挟んで言い争ってる。

 うちの学校は、1年は赤、2年は緑、3年は青と学年でネクタイやリボンの色を分けてる。色は3年間持ち越しで、一度購入したネクタイの色が変わることはない。

 弁当を渡したいと騒いでる女子は赤いリボンを、それを咎めている女子は青いネクタイを着けている。そして倉本先輩は2年だから、ネクタイの色は緑。カラフルだな。

 そんなことはいいとして。朝っぱらから、しかも一週間の始まりに、こんな目立つところで騒がないでほしい。いくら下駄箱の出入り口が広いからって、通学時間に入り口一ヶ所でも塞がれるのは十分迷惑だから。

 現在、玄関前は、触らぬ神に祟りなしって感じで見て見ぬふりをしながら修羅場を避けて校舎に入ってる人、野次馬化して校舎に入ろうとせず修羅場を見守ってる人に大きく別れて、若干混雑気味だ。

 因みに、1年の靴箱は真ん中にある。学年が上がったら移動とかではなく、3年間固定だから新入生は前年度の卒業生が利用していた場所を使うようになるという仕組みだ。

 つまり、すっごい邪魔。1年は隙間見つけて靴脱いで、校舎入ってから自分の靴箱に行くという面倒くさいことをさせられている。修羅場の3分の2が先輩だから、強く出られないといった感じだ。

 この状況を一番どうにか出来そうな立場だと思われる倉本先輩は、若干フリーズしてる。必死に笑顔作ってるけど、目が全然笑ってない。笑ってないどころか、生気を感じられない。この状況にうんざりしてるって言うよりも、気が遠くなってるみたい。腹黒なのはゲームだけなのかも。

「倉本くんに差し入れしていいのは、軽食だけだってファンクラブの決まりを知らないの!?」

「私はファンクラブに入ってないから関係ないです!!」

 しかし、強いな、あの1年。先輩、しかも3年生に向かってあの態度って。度胸があるって感心すればいいのか。向こう見ずだと呆れればいいのか。

 ちなみに私は、遠回りが悔しくてどうしようか考えあぐねていたら、野次馬の一人になってしまっていた。不覚。

 もう正面は諦めて遠回りしてもいいから校舎に入りたいけど、完全に野次馬の群れに埋もれてしまってあんまり動けない。本当、朝から災難だ。


 ドンッ。


 突然背中を押された。

 身体が前に倒れそうになるのを防ぐために、自然と足も前に出る。勢いのままに野次馬の群れから外れてしまった。

 そして、目の前にいるのは、絶賛修羅場中の3人。

「何よ」

 突然現れた女子生徒に、3年の先輩は不審な顔をして睨んだ。何って、そんなの私が聞きたい。

 物理的状況の変化が起こり、さっきまで誰も彼もが話して騒がしかったのに、一気に静かになった。

 たぶん今、私が一番、注目されてる。居心地が悪い。何でこんなことになってるの?

 問題の1年女子は迷惑そうに私を見てくる。迷惑なのはそっちだから。勘弁して。

 倉本先輩は、目を丸くして私を見てる。あの、一番驚いてるのは私だから。

 ああ、もう、こうなったら言ってやる!

「今は通学時間でここは玄関前です。大事なお話があるなら、別の場所でお願いします」

 とは言っても、面倒事は極力避けたいから、出来るだけ穏便にを目指す。嫌味とか文句っぽくなってないかな。

「あんたに関係ないでしょ!!」

「邪魔しないで!!」

「ちょっと美人だからって調子に乗ってんじゃないわよ!!」

「そうよ!!ちょっと美人だからって偉そうにしないで!!」

 あ~、ダメだった!っていうか、後半は意味の分かんない言いがかりじゃない!?何でいつもこうなの?なんか空気も悪くなってきたし。何なの、もう。

 ここで俯いちゃダメだと分かってても、情けないやらなんやらで、視線がどうにも下に向いてしまう。


「ここで立ち話をして皆に迷惑をかけてるのは確かだと思うよ」

 凛とした少し低めの声が通った。顔を上げると、倉本先輩が困ったような表情で微笑んでた。

「あと、前から思ってたんだけど、ちょうどいい機会だから言わせてもらうね。今日から差し入れはどんなものでも僕は一切貰わない」

「そんな!?」

「何でですか!?」

 倉本先輩の宣言に女子生徒二人が動揺する。似たような叫び声が周りの人だかりからも聞こえてきた。

「いつも皆が差し入れをたくさんくれるから、食べきれないことが多くて困ってたんだ。皆がくれるものに優先順位をつけられないから、一部の人の差し入れを断る訳にもいかないし」

「「でもっ!!」」

「ダメ、かな?」

 倉本先輩は、潤んだ瞳で首をこてんと傾げて、二人を見つめた。

 すると、さっきまでカッカしてた二人が途端に静かになった。たぶん、悶えてる。絞り出すような声で「は、はい・・・」と返事をしてる。

 この人、自分の顔面の威力分かってるんだ。やっぱり腹黒なのか?

「よかった。ホームルームに遅れるといけないから、そろそろ行こうか」

 先輩の言葉に、女子生徒は大人しく従い靴箱へと歩きだした。

「皆も迷惑をかけてごめんね」

 倉本先輩は辺りを見回しながら大きな声で言った。変わらず眉は八の字のままだ。

 「いいよー」とか「王子も大変だなー」とか労うような声色であちこちから言葉が聞こえる。王子呼びってデフォなんだ。

 野次馬の群れも少しずつ動きだした。段々と景色が日常のものに変わっていく。空気が一瞬で澄んだみたい。

 すごい。これが王子パワーなのか。さすがって思えばいいのかな。

 よしっ、流れに乗じて消えよう。あんなことになった後だけど、出来れば私はあんまり目立ちたくないから。倉本先輩と接触のチャンスだけど、スルーする。

 今、ここに花鈴いないし。イケメンと恋をする予定なのは、私じゃなくて花鈴だから。



書きながら、制服は取り敢えずブレザーってことしか考えてなかったなぁと気付きました。

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