第1話も始まらない
物語の始まり方はある程度決めて書き始めたのに、いざ書き出すと、違う・・・ってなって2話目にして早々話を練り直すという。度々起こりそうです。
花鈴がこの世界は乙女ゲームの世界だと話した。そして、ゲームの設定と現実とは異なる点がたくさんあるだろうと私達は考えた。
何てったって、ストーリーの中心になるヒロインのあれこれがゲームの設定と現実とで違っているから。
そもそもゲームの始まりは、ヒロインが2年生の時に親の仕事の都合で遠方から恋白学園に転入したところかららしい。けど、そのゲームでヒロインだった花鈴は、中2の夏に実家から学園に通える範囲に引っ越してきたたし、普通に恋白学園の受験をして、普通に新1年生として恋白学園に入学をした。
いやいや、ゲームの設定を自分からあっさりと変えちゃってどうすんのよ、って思った。
花鈴が前世を思い出してここがゲームの世界だって気付いのは、恋白学園のオープンスクールに行った時らしい。ちなみに、私も一緒にいた。
その時にゲームみたいに恋がしたいって思ったって言うんだけど、だったら絶対ゲームのストーリー通り進めた方がいいでしょ。って私はパッと思ったんだけど、現実は自分の思い通りに転校することなんて出来ないからと、割と冷静に花鈴は考えて普通に恋白学園に入学することにしたらしい。
「ゲームのことを思い出した時には、れいちゃんはもう私の大事な親友になってたから。ゲームのシナリオ通りにしようと思ったら、私はれいちゃんと一緒にいられなくなっちゃうもん。だから、ゲームの設定はそんなに気にしなくていいんだよ」
そういうことを曇りなき目と屈託ない笑顔で言われると、こっちは頷くしか出来なくなる。むずがゆい。
元々花鈴は、ゲームの知識はあまり頼り過ぎないつもりで恋愛をするつもりだったらしい。物語を盛り上げるためのイベントとかが、ゲーム通りには起きないだろうからだって。
それを聞いて、私は内心ホッとした。花鈴が本気でこの世界がゲームの世界だと思ってるわけではないように思えたから。花鈴が知ってるとあるゲームと似た世界くらいに思っておこう。
ゲームと似てるけど、でもゲームの世界ではない。だから、現実は何が起こるか分からない。
「まさか、クラスメイトに話しかけるのがこんなに難しいなんて思わなかった」
「石崎くんの周り、たくさん人がいるし、何より荒木さんが怖いよね」
「本当、問題は荒木よ」
ゲームの情報は一応一通り説明を聞いた。ゲームで攻略対象だった男子達の話が現実でどのくらい活用できるのかは、全然見当がつかないけど。
何はともあれ、実際に関わりを持たなければ、恋の予感さえ生まれないのだから、まずは男子達と顔を合わせたら挨拶を交わす関係になることを目標にした。
攻略対象の一人、石崎拓真は栗色の短髪にはっきりとした目鼻立ち、オレンジの澄んだ瞳が爽やかな印象的なビジュアルだ。性格は、明るいスポーツマンだけど、俺様な面が難点というキャラクターらしい。
クラスメイトにそのキャラクターと名前と容姿が一致する人物がいる。性格がどうかはまだ分からない。
ということで、クラスメイトである石崎は、朝の教室や放課後に顔を合わせたりすれば、挨拶くらい当然交わすから、第一段階クリアだ。この好環境を活かそうと、石崎とは少しでも会話をするような関係になることを即目指すことにした。
同じクラスなんだから、そのくらい楽勝だろうと私も花鈴も最初は思っていた。
「もう既に荒木に敵認定されてる気がする」
「荒木さん、なんか怖いよねぇ」
ゲームでは当然だろうだけど、現実でも石崎はモテる。入学早々女子生徒達を騒がせた人物の一人だ。私や花鈴はそういう噂とかに疎いんだけど、流石にクラスメイトだったら気付く。
モテるんだけど、周りに女子は少ない。原因はクラスメイトの荒木だ。
荒木のことを一言で説明すると、キャピキャピ女子高生代表って感じ。たぶん、その腹の内は黒いと思う。女子のマウンティングとか絶対してる。正直、苦手なタイプ。一緒にいたら絶対疲れる。
そんな荒木が石崎にべったりと張り付いている。一応本人なりに違和感を作らないようにって、自分と石崎が加わった男女混合グループを作ったみたいだけど、それでも男子と女子が常に一緒にいるっていうのは違和感が拭い切れない。
荒木がグループのメンバーに選んだ女子は、可愛過ぎず地味過ぎず自分の引き立て役になる丁度いい子を選んだって感じで、見てて気分が悪い。いや、荒木に本当にそんな意図があるのかは分かんないんだけど、彼女の言動や態度がどうしてもそう感じさせてしまう。
うちのクラスは既に妙な緊張感が漂う空気が出来上がってる。まだ高校生活始まって2週間くらいしか経ってないんだけど。勘弁して。
身近な場所にイケメンがいれば、お近づきになりたいと思うのが女子心なんだろう。石崎に話しかけたそうにしている女子をこの2週間で何人も見てきた。そりゃもう何人も。その度に、荒木はその女子達を牽制してきた。
そう、自分が許した女子以外を石崎に近付けないようにしている。おかげで荒木は女子生徒の大半に嫌われている。正直私もあんまり好きじゃない。顔見る度に威嚇してくる相手好きになれって方が難しい。
可愛い子が石崎に近付こうとした時の牽制もとい威嚇が特にすごい。表情がやばい。好きな人の側でそんな顔して大丈夫なの?ってなんかもう一周回って心配になるレベルだ。
当然花鈴もかなり警戒されている。花鈴可愛いもんね。
そんなこんなで私と花鈴は、普通にクラスメイトとして石崎と話すことさえ未だ叶わないでいる。
高校生活3週間目、部活見学・仮入部期間が始まった。
私も花鈴も帰宅部の予定だけど、他クラスや他学年の人と関わるチャンスだから、見学だけはしっかりすることにした。
「サッカー部に石崎いなかったね」
「違う部活に入ったってことかな」
ゲームで石崎はサッカー部だったからってことで、サッカー部を覗きに来たけど、サッカー部の練習場に石崎の姿はどこにもなかった。仮入部もしてなければ見学もしてないみたい。
「他の3人は部活は何入ってたの?」
「部活入ってたのは石崎くんだけだったよ」
「青春しろよ、男子高生」
「れいちゃん、それは私達も人のこと言えないよ」
おっしゃる通りで。花鈴に突っ込まれてしまった。
ゲームで攻略対象とされた人は全員で6人。その内4人が恋白学園にいると確認できた。残りの2人は、1年後輩と私達が2年に進級した時に転校してくる同学年らしい。つまり、攻略対象だった生徒が現時点で恋白学園に在学してるかどうかは、今のところゲームの設定通りということだ。
ちなみに、ゲームでヒロインの親友だった人は学園にはいない。ここはゲームと異なる。
このままじゃ目的の人物と全く接触出来ないで学生生活を終わってしまう。
と、諦めるのは早いから、ゲームとは違ってどこかの部活に所属していることを期待して、部活見学は続行した。せっかくグランドに出たし、ということで今日は運動部をメインに見学することにした。
しかし、この学園本当に広いな。生徒の人数が一クラス40人×8クラス×3学年っていう結構な数だから、校舎や敷地もそれなりの広さが必要になるから当然言えば当然なんだけど。オープンスクールの時に先輩からのアドバイスで聞いた、新入生の必須アイテムが学園の地図っていうのも頷ける。
「あ、いた」
陸上部、野球部の部活風景を通り過ぎて辿り着いた先で、目的の人物を見つけて私は立ち止まった。
釣られるように花鈴も立ち止まり、私の視線の先を振り向いた。
「あそこってテニス部?」
「テニスコートの周り走ってるから、そうじゃない?」
二つ並んだ大きなテニスコートの周りを走ってる団体がいる。その団体の後列に石崎らしき人物を見つけた。早速仮入部をしているようだ。ゲームで所属していたサッカー部ではなくテニス部に。
男子テニス部の見学者は、男子よりも女子生徒が多いみたい。どこの運動部も黄色い声援が飛び交っていたけど、ここテニス部も同じようだ。この人数、ざっと20人くらいはいるかな。
「げ、荒木もいた。こっち見てる」
目的の石崎を見つけたはいいけど、会いたくない人物まで見つけてしまった。しかも目が合った。まるで親の仇を見るかのような目で睨んできてる。怖すぎでしょ。というか、よく私達に気付いたな。夢中で石崎見てればいいのに。
「私達、荒木さんに何かしたかなぁ」
「記憶には全くないけどね」
触らぬ神に祟りなし。どうせ練習中に話しかけられるわけでもないからと、私と花鈴はテニス部の横も素通りして行った。
なんか石崎とは恋愛するどころか会話するだけでも命がけになりそう。
タイトルは乙女ゲーム的にです。