新製品
「社長、例の新製品の試作品が完成しました」
入室を許可した社員が恭しく報告する。
「おお、ついに完成したか。早速見せてもらうとしよう」
座っていた私は立ち上がり、社員を引き連れ、社長室から十分ほどのところにある工場へ向かう。
研究に莫大な資金を投入し、幾年もの歳月をかけてようやく試作品が完成した。
「ところで、現場の社員には今何をさせている?」
「はい。今は最終チェック中です。工場に到着するころには完了すると思われます」
「それは結構」
リノリウムの床が続く通路を抜け、エレベーターへ。やはり、十階の社長室から工場までが少し遠い。五階ぐらいにしておけばよかった。
エレベーターを降りると、別の社員が私を待っていた。作業服を着ているので、恐らく工場の者だろう。
「社長、最終チェックが終わりました」
「ほう、早いな」
二人の社員に連れられ本社ビルを後にする。工場へは徒歩で三分ほどの距離だ。これほど近いと工場との連携がスムーズに行える。
本社ビルの隣の駐車場を歩いていくと、赤茶色の金属板に覆われた三棟の工場が見えてくる。
「試作品はどの工場だ?」
「一番棟です。試運転はすぐに出来る様にしております」
社員は一番右の工場を指差した。そしてタブレットを渡してくる。
「これで操作が出来ます。感覚的にはラジコンの要領で操作できるはずです。
「そうか。では入ろうか」
工場の扉を開けると、作業員全員が手を止め一礼をする。私が手で制すとまたそれぞれの作業に戻る。
試作品はどこだろうかと探していると、奥の方に灰色のシートを被せてあるのが目に入った。
「これかね?」
「はい。ただいまシートを外します」
社員がシートを外すと、試作品が姿を露わにした。
「え、あそこの会社倒産しちゃったの?」
「そうなのよ。なんでも新製品で大赤字になったとか」
主婦の井戸端会議が嫌でも耳に入って来る。別のところでして欲しいものだ。
「そういえば、どんな新製品だったのかしら?」
「それがねえ、傑作なのよ。もう滑稽ったらありゃしないって感じで」
確かにあの製品は酷過ぎた。本当に何であんな製品に生産許可を出したのか今でも理解に苦しむ。どう考えても失敗作、明らかに大赤字になるに決まっていたのに。
こんなことになるのなら生産するのをやめておけばよかった。飛行型座布団なんて。