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「死んだ後、私は妖精として異世界に転生しました。そして最愛の人と再会しました。」  「花の魔術師」となったエレナ・エリザベス・リリーの物語

作者: トッキー

 この作品は、「神造生体兵器 ハーネイト」ハーネイト遊撃隊 星の守護者に登場するエレナ・エリザベス・リリ-という少女が、どのような経緯で地球からフォーミッド界に転生し、その中で生前に出会い将来を約束した男と世界を越えた再会を果たし、それを導きながら大魔法を教え、「花の魔術師」として鍛え上げてくれた解決屋との出会いについて、リリーの視点から話を進めていく短編小説です。 


「12歳で死んだ私は、目を覚ますと妖精として異世界に転生しました。」


「ここは、どこ…?」


私は目を覚まし、ゆっくりと辺りを見回した。あのとき私は死んだはず。死ぬ直前に天国に行けるのかななんて、子供心ながらに思っていた。そして先に死んだ両親に会えるかなと薄れゆく意識の中で考えていた。しかし私が今見ている世界、そこは天国とはほど遠い、豊かな森の中でした。


どうやら、私は死んだものの転生し、別の世界に来たようです。私の最後を看取った、あの男の顔が忘れられない。最後まで私の名前を呼んでくれた、人のようで人でない人。あの人にもう二度と会えないのかなと思うと、私は泣けてきた。


 そして私も人ではなく、妖精としてこの異世界に転生したことをすぐに理解した。

 小悪魔のような羽に、紫色の体を強調するレオタードをいつの間にか纏っており、生前は短かった髪も長くなり色も茶髪から金髪に変わっていた。私は長い後ろ髪をまとめ、とりあえず少しその場から動いてみた。

 元々いた地球と何ら変わることのない重力、空気、風。それを確認しひとまずほっとする。どうやら環境自体は人が住むには十分すぎるところであり、豊かな自然が私の心を和ませてくれた。


私の生前はイギリスのロンドンに住んでいた。私は9歳のときに両親を飛行機事故で亡くした。その当時太陽フレアというものが地球を直撃し、両親の乗っていた旅客機の電子装置が狂い航行不能となって墜落したのである。それは人口密集地に落ちて多くの死者を出した。幸い私はそこにはいなかったものの、最愛の両親を亡くし悲しみに暮れていた。親は資産家で、私には遺産があったけれど、強欲で醜い心をもつ親族たちにそれを全て奪われた。そして彼らからの執拗な嫌がらせ。私は親も居場所もなくし、途方にくれていた。空をただ眺め、毎日を過ごす日々。


そんな中、10歳の冬に最初の運命の人と出会った。いや、あれは人ではなく魔王と言うものであったけれど。


緑の立派な角に蒼い髪、紫のコートとスーツをきっちりと着た、眩いほどの金色の瞳が特徴的な、2m近い美形の大男。彼こそが後に、今私が来たこの異世界で伝説を作り、人理と世界を守る定めを背負う者。そして超生命体「ソラ」という存在によって作り出された菌界人こと「サルモネラ伯爵三世」その人であった。


彼は立ったまま、座っていた私を見つめ話しかけた。異形の姿、怖いはずなのに声は優しく、いつの間にか私はその人に私の全てを話していた。

するとその男は姿を消し、一時間後に戻ってきた。彼の手には母の形見の宝石と、親族が持っていた遺産の全てがあった。

どうやったのと聞くと、私が恨む親族全員を微生物で溶かして食べたあと、そこにあるだけのお金と指輪を回収したと言う。

私は突然の出来事に何がなんなのか分からなかったけれど、この男が如何に危険かだけは理解した。彼には物事の善悪がついているのか不安であった。しかしそれは間違いでもあった。

確かに親族は恨んでいたし、結果的には母の形見まで取り戻してくれたのでいいとして、なぜそうしたか理由を聞くと、その人は私がその人と同じ眼をしており、笑った顔をみたいと言う単純な理由でその凶行に及んだという。

ああ、この人は純粋な人、いや子供に近い感性の人かなと感じた。しばらくして彼は自身の体のことを教えてくれた。この微生物を操る男は、誰よりも人間らしく優しく、どこか王の風格を漂わせていた。人ではなく、神によって気まぐれで作り出された菌の人間なのに。


そして私は男が回収した遺産でその男と暮らすことにした。もしかすると、接し方次第では良い人物になってくれるのではないか。そして彼が道を間違えるようなことをさせたくないからという気持ちもあった。

 たまにしばらく帰ってこないこともあったけど、その分私を愛してくれた。彼は家事も上手で話が特にうまかった。飽きることのない話。いつまでも続けばいいなと思ったその生活は2年で終わった。私が流行り病にかかりその生涯に幕を閉じたからだ。

あの人の異形の力なら、もしかするとここに現れるかなとも思った。期待したいけど、今は生き抜かなければ。そう考えていた矢先、私を襲う魔獣が森の茂みの奥から現れた。それは大きな猪であり、私を見るな否や突進し、何匹も私のもとに向かってきた。

そして足がすくみ、恐怖で目をつぶったそのとき、獣の足音が止まり代わりに断末魔が聞こえた。驚いて眼を開けると、突進してきた魔獣たちの頭に白銀の剣が刺さり、既に絶命して地に伏せていたのだった。

更に森の奥から男の人の声がする。しかし高く響くその声は女性のものにも聞こえた。すると突然、まだ遠くにいた残りの魔獣たちが地面から現れた白い布に捕まり拘束された。

そしてすぐに、その声の主が私のもとに現れた。そう、異世界で初めて出会った人間であり、この男こそ私の運命を変え「花の魔術師」として育ててくれて、何よりも最愛の男との再会を導いてくれた人だった。

その青年は濃い緑の髪、中央から別れ左右で少し跳ねて、後ろ髪は腰まで長く伸び、髪の毛と同じ色のリボンで一つにまとめていた。

そしてすらりとしたバランスのよい肉体、まるで空色のような透き通った瞳、まるでお人形さんか何かのように調った綺麗すぎる顔立ち。あの男とは違う美しさを備えていた。右手にはペンのようなナイフ、左手には日本刀を持っていたのを覚えている。


彼の名はハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテイン。この異世界の住民で、何でも屋と言われる解決屋と言う概念を作り出した男である。そしてこの世界を7回も救い、幾多の戦争を終わらせてきた大英雄でもあった。

彼は私の姿を見ると、そっと声をかける。目付きこそ鋭いものの、それはすぐになくなり、屈託のない笑顔を私に見せつつどこから来たのかと尋ねた。その表情にどこか、伯爵の面影を見た。

私はそのハーネイトと言う男に一連の事情を説明し、彼についていくことにした。この世界はフォーミッド界といい、その中でも今いる星はアクシミデロ星であると彼は丁寧に説明してくれた。ついていった理由は、今後の生活のため、この世界のことを知るためではあったが、何よりも優しくて強く、誰よりも悲しみを背中に背負う彼の姿が放っておけず、気になったからだ。


彼とはその後一年間旅をした。多くの出来事があり、私は彼と共に戦った。その中で魔法のセンスがあると言われ、とある魔法を教えられた。彼は魔法使いに革命をもたらした異端児であり、魔法戦で右に出る者がいないとされていた。剣術もそうであり、他にもまだ私に何かを隠しているようだった。

彼が教えてくれたものは、三行句の詠唱文で発動可能な魔法の大技「大魔法」 通称アルティメタムマジック。術者が苦手な魔法属性でも行使できる代わりに、魔力の少ないものが使えば牙を剥く諸刃の魔法。どんなに優れていても5年から10年はかかるというその魔法の習得を、私は一年間の間にその全てである110の魔法を全て覚え、しかも最大限に行使できるようになった。それを彼は心から喜んだ。そして、可憐な姿とその功績から私に「花の魔術師」という位名を名付けてくれた。


そして機士国に仕えることとなった彼と共に、私もその隣にいた。

機士国王さんも、その護衛の人も私に優しくしてくれた。大魔法のことを話すと羨ましがられ、国王からもよく誉められたことを覚えている。彼らもハーネイトから魔法を習い、一定の技量を認められていた。機械と蒸気の国で魔法を覚える人たちを不思議だなと私は思いつつも、その人たちの楽しそうな姿が頭から離れなかった。

彼がそうして解決屋本来の仕事をしながら、夜は図書館で一緒に本を読む毎日を送っていたそのとき、最大の事件が起きた。


オーウェンハルクスの悲劇としてのちに語り継がれる事件。そこで私はあの微生物の魔王と再会した。


 ハーネイトが機士国に仕えて2年目に差し掛かろうとした時、機士国領ハーウェンオルクスという小さな町で起きた大事件があった。魔人が街を焼き払い、住民を殺戮しているという連絡が城に届いた。兵隊たちが応戦しているものの形勢が思わしくなく、魔獣殺しの異名を持つハーネイトはフル装備でオーウェンハルクスに急いで向かったのだ。

 

 そこには、無数の霧でできた触手を背中から出し、周囲全てを溶かし喰らい尽くそうとしていたおぞましい異形の姿をした男が、火に包まれる街の中にいたという。私は怖くてハーネイトの身に着けていたペンダントの中に魔法で隠れた。しかしそれを私は後悔している。夜中であり、その男の顔も見えない状況であったとはいえ、ハーネイトにすべて任せたのが間違いであった。もし早く彼の存在に気付いていれば、ハーネイトは傷つかずに済んだだろうと。

 ハーネイトは無論伯爵の暴挙をすぐに止めようと愛用の刀を抜く。しかし苛烈な攻撃をよけて、華麗な剣術で切りつけるも全くその男は傷を負わない。それどころか霧の塊を飛ばしてきて、ハーネイトの左腕や展開していたマントの一部を撃ち抜き喰らうのであった。

 今まで多くの魔獣や魔物を屠り、試練と言われる超大型の異世界から来た侵略者たちも難なく撃退してきたハーネイトは初めて恐怖を覚え、その時点で持てる力全てを開放し戦いを続ける。イジェネートに大魔法、ありったけをぶつけた。しかし攻略法が分からず、ついに膝をつくハーネイト。それを感じ私はペンダントから出てきて状態を確認する。もう既に体はボロボロで、このままでは死んでしまうのではないかと判断した。そして私はハーネイトの目の前に立ち、盾になろうとした。それが彼にとっての最大の幸運であったと考えている。その男は一人の少女を探すためあらゆる場所を移動し転移してきた。そしてハーネイトの目の前にいる少女こそまさにその人であった。

 男は理性を取り戻し、サルモネラ伯爵はリリーと、世界を越えての再会を果たしたのであった。そして重傷のハーネイトを見ると、彼はその恐ろしい力を癒しに変え、助けようとする。しかし思わしくない。

そして力を振り絞り、燃えた街をハーネイトはじっと見つめる。すると次の瞬間その悲惨な光景は消え、元通りの状態になっていた。そして、ハーネイトは力なくその場に倒れた。

私は急いで大魔法91之号 「ヒールリペアウインド」を唱えハーネイトの体を癒そうとする。しかし効果が思ったより出ない。ハーネイトは目を覚ますも自力で帰還できそうになかった。数年後に分かったのだが、彼は人の体のつくりをしていなかった。それが治療を困難にさせていた理由であった。しかしその時、状況が状況でそう考える余裕など、私も伯爵もなかった。

そのとき近衛兵のルズイークとアンジェルが駆けつける。そしてハーネイトの姿をみて二人とも膝を地面についた。不敗の英雄と称される彼が傷つき動けない状況にただ二人は呆然としていた。

そこで私は事情を説明し、2人を叱咤しつつ、我を取り戻した伯爵も連れて城に戻るように指示した。ルズイークが涙を流しながらハーネイトを担ぎ、城に向かう。そのあとを追いかける私たち。

 そして城に入ったとき、そこには国王がハーネイトを抱き大声で叫び泣いていた姿だった。そして伯爵の方を向くと、腰につけていた剣を構える。彼を傷つけたものを許さない。一個人が傷つけられただけというのに、国王は親しい誰かが殺されたよりも強い怒りを顔に見せていた。それほどに国王であるアレクサンドレアル6世は彼を人として愛していた。

そのあとが大変で、怒りに燃える人たちを必死でなだめ説得し、すぐさま私含め全員が彼の治療に当たった。無論伯爵も手伝わせた。

お陰で彼は3日で元通り、だけど少しトラウマが彼に残ってしまった。しかし伯爵の方は彼を気に入っていた。なぜかと話を聞くと、事実上不死身であるはずの伯爵に、ハーネイトは3回も致命傷を与えたという。彼はそれが嬉しく、また彼自身もハーネイトの恐ろしさについて身をもって体感したのであった。そしてこれほど強い存在がいるとは思わなかったと私に話した。そしてハーネイトの方も少しずつ落ち着いてきた。 

 私は既に二人のことが好きだった。力強く、粗暴だが純粋で熱いサルモネラ伯爵、そして誰からも愛され、時にお茶目で女性のようにも見える麗人ハーネイト。この2人に仲良くなってほしいと考え、私が間に入って話をしてもらった。伯爵は生前に会った時から人があまり好きでなく、見下していたという。しかしハーネイトのことは嫌いにはなれず、面白くて興味を引くとそう言った。それを国王たちは部屋の外からそっと見ていたのを私だけが気づいていた。

その後伯爵は、国王のもとで裁判を受けるも、情状酌量とハーネイトの対応により結局今回だけは許された。そしてハーネイトは国王と共に私と伯爵に世界を周って見てくる旅を勧めてきた。ボルナレロと言う男が作った装置を持つことを条件に、伯爵は自由の身となった。後になって分かったけど、この国王さんはしたたかであり伯爵にハーネイトの偉業や伝説を肌で感じてもらい、その上で二人一組にさせようとしていたのであった。

 私はハーネイトとのしばしの別れに涙した。しかしまた会う時が来ると彼はいい、こうして私と伯爵を引き合わせてくれて、魔物すら簡単に倒す魔法をすべて教えてくれた彼に最大の感謝をして、伯爵と世界を巡る旅に出た。

 その旅は3年もかかった。場所により文明の進み具合が大きく異なっていて、地球よりも険しい山や谷が幾つも存在した。そして何よりも、ハーネイトと言う人の存在がこの世界に住んでいる人にとって大きな支えとなっていた。日常的に襲ってくる魔獣や魔物を彼やその仲間が倒すことで、多くの人が笑顔で過酷な世界において営みを続けていたのを私は理解した。ハーネイトの仕事ぶりは人間離れしており、仕事を拒むことを知らないほどであった。しかし彼の名前を出せば、皆がうれしそうな顔をしていた。それが答えなのだろうと私も伯爵もそう考えた。

 そしてある時ハーネイトから一通の手紙が届いた。ワニム・フニムと言う不思議な名前のカラスから届いたその手紙は、再会して力を貸して欲しい。と書いてあった。すぐにワニムに返事を渡し、待ち合わせの場所に向かうことにした。それが、あのDG戦役と称される戦い、そしてハーネイトと伯爵を生み出した女神との過酷な戦いの歴史の序章になることはまだこの時、誰もが知る由もなかった。


ハーネイトが仲間として認めるメンバーで唯一、死んだ後に転生して別世界から来たティンキー・リリーことエレナ・エリザベス・リリ-。その彼女の視点から何があったのかを書いてみました。



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