アシハイラナイ…お帰りはコチラです!
蛇足は不要の様ですね。
「この紙って不自然に途切れている箇所が何ヶ所かあるの。だからまずは、この文字を全部ひらがなにすると、『かわいいうさぎは がきがきらい みにくいうさぎは にくがすき たくさんきたら てあしたべたい』ってするの。それで、さっきから聞こえている歌に『足はいらない』って部分があったから、それぞれの文の最後の文字だけ取り出すと『はいはきらい』ってなるから、あの怪物たちは”はい”が嫌いなんじゃないかと思うんだけど…」
千尋は階段を昇る歩みを緩めながらも、俺に自身の推測を披露するのだった。
彼女の推測を聞いた俺はなるほどと思った。
だが、それと同時にふと疑問に思ったこともあった。
「なあ千尋…。結局、その”はい”は何処にあるんだ?」
「うん…多分あそこになら間違いなくあると思うんだけれど…」
そう言って千尋が”はい”の在りそうな場所を告げようとした時に背後で変化が起こった。
『『#$%&%&%#@!!』』
先程までの歌のような音が突如として止み、代わりに壊れたラジオの様な不快な騒音が階段に鳴り響き。急に階段を昇る速度を上げた2体の怪物たちの姿が見えて来た。
「ちっ…急にアイツ等動きが速くなってきたぞ!!千尋、急いで逃げるぞ!!まだ走れるか!?」
「あっ…うん、大丈夫!タク君、とにかくさっきのことは私に全部任せて!」
「分かった!とりあえず、まずはあいつらに捕まらない様に逃げ切らないとな!!千尋、先に行け!!」
こうして俺たちは、背後から急にスピードを上げて迫って来る怪物たちから逃げるべく、再び階段を全力で昇り続けた。
『『#$%&%&%#@!!』』
「不味い、アイツ等にもう少しで追い付かれる!!」
声が近づいて来ることに不安を感じた俺は、走りながらも背後に目を向けると最早マスコットとして可愛かった頃の面影など全くない、グロテスクな光沢を放ちながら異形の口と鋭い爪を持った2体の怪物が迫って来ていた。
「あっ…タク君!!前を見て、暖炉の入口までもうすぐだよ!!」
「本当だ、これならアイツ等を振り切れるかもしれないぞ!!」
『『#$%&%&%#@―――――!!』』
そして、先頭を行く千尋は俺よりも一足先に階段の出口である暖炉の所まで来るとおもむろに何かを両手に持ち始めた。
「何をしてんだよ、千尋!?お前も早く外に逃げろよ!?」
「ちょっとだけ待って、多分こうしないとあの怪物から逃げられない気がするの…!!」
そう言いながら千尋が両手に持っていたのは、暖炉に残っていた大量の灰だった。
「メモにあった”はい”って暖炉の”灰”のことだったのか!?」
「多分、そうだと思う…。もしかしたら、あの怪物たちが暖炉から出てこなかったのは階段の入口に大量の灰があったからかもしれないと思って…」
そう言いながら両手に灰を持つ千尋だったが、その様子ではあの化け物たちがかなり接近しなければ当たらないと思える程に頼りない様子だった。
「…あー、もう!!俺が代わりにあいつらに灰をぶつけるから、お前は俺の後ろに隠れていろ!!」
『『#$%&@%&%#@*@#$%&\―――――――!!』』
俺はそう言って千尋を後ろに隠すと、なおも俺たちを追って階段を昇って来る怪物たち目掛けて渾身の力で灰を投げつけた。
『『ah…?#$%&%&%#@@$!#&$&&$’―――――!!』』
俺が投げた灰は、俺たちを捕まえるために身体を乗り出した怪物たちに直撃した。
すると、劇的な変化が訪れた。
『『&%#@―――――――――――――――――!!』』
灰が当たった部分を中心に広がる様に怪物たちの身体が輝き始めた。
怪物たちは輝き続ける身体のまま、もがき苦しみ続けた。
そして、前に出ていた怪物の1体が階段の足場を踏み外すと、後ろに大きく体勢を崩しその怪物の後ろにいた怪物も巻き込んで階段を転げ落ちて行った。
『『――――――――――――――!!』』
怪物たちはそのまま明かりの無い暗闇の階段をひたすら転げ落ちて行き、いつの間にか壊れたラジオの様な音もしなくなったのだった…。
………。
……。
…。
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その後、俺たちは無事にドリームキャッスルから脱出することが出来た。
つい先程まで開かなかった扉は嘘の様に簡単に開き、他のアトラクションに寄ることなく足早に深夜の裏野ドリームランドを後にすることにした。
そして、俺たちが家に帰ってからの翌日に学校に登校した時に気付いたのだが、あの暗号が書かれた紙はいつの間にか無くなっていた。
後日、裏野ドリームランドは全てのアトラクションが取り壊されることになり、多くの人がその出来事を残念に思った。
だが、俺たちはそのことを聞いて安心するのだった。
後で知ったことなのだが、灰には清めの効果があるとされていて、日本各地では海難事故で亡くなったとされる船幽霊に用いられていたとも言われているそうだ。
もしかしたら、あの怪物たちは水に関わる場所で死んだ人間の成れの果てだったのかもしれない…。
俺と千尋はあれから無事に大学へ進学し、卒業と同時に結婚式を挙げた。
多くの同級生たちに祝われ、今では千尋が俺との間に出来た子供を妊娠している。
地下室での恐怖の体験をした俺たちは、吊り橋効果の様な影響もあり、今ではおしどり夫婦の如く仲睦まじくなった。
だが、あの日の夜の後、お互いに冷静になって気付いたことがあった。
それは、あの地下室で見た光景と暗号の謎だ。
あの場でドリラビ君が切断された光景が衝撃的だったが、よく考えればドリームキャッスル内には俺たち以外には誰もおらず、あのドリラビ君は何処から来たのか、階段には誰も使った形跡が無かったはずである。
そして、あの時逃げる際に聞いた歌では『足はいらない』と言っていたが、たしか『頭が欲しい』とも言っており、頭の文字を読むと『かがみにたて』とも読むことが出来た。
もし、あの時ミラーハウスに立ち寄っていたら俺たちはどうなっていたのだろう…。
もしかしたら、ミラーハウスに立ち寄っていた可能性もあったかもしれないが、あの悪夢のような一夜を経験した後だろうし、恐らく気付いていても怖くて確かめることなどしないだろうと思う…。
バッドエンドをお望みの《ゲスト》の皆方は次のお話をお楽しみ下さい!