キャストはゲストのことを第1に考えてます!
ドリームキャッスル前に着いた俺と千尋は、まずは中に入れるかどうか確認をするために入口へと向かうのだった。
すると、入口には鍵が掛かっておらず、あっさりと城の中に入ることが出来た。
ドリームキャッスルの正面入口から入ると、そこは大広間だった。
そして、懐中電灯の明かりを向けるとそこには、真っ赤な絨毯に灯りの点いていないシャンデリアや灰の溜まった暖炉、豪華な装飾の施された甲冑などがあり、中世の雰囲気が漂う場所だった。
ドリームキャッスルの公式設定によれば、マスコットキャラクターのドリラビ君とその妹、弟たちが住む城で、ガイドの人に案内されながら城の中を探索する徒歩移動型のアトラクションだった。
最終的にはガイドの人に城の最上階まで案内され、裏野ドリームランド全体を一望することができる大人気アトラクションだった。
しかし、案内される場所の中には地下室に行けるような場所など無く、公式設定上でも地下室の存在は触れられていなかったため、地下室とはスタッフの休憩室のことだったのではないかとも推測されている。
だから、俺たちはガイドの人があまり参加者を案内しないであろう場所を中心に探索し始めることにした。
大広間から近い順に衣裳部屋、お手洗い、子供部屋、遊技場、厨房を千尋と手分けして探すのだった。
しかし、どの部屋にも地下へと行けるような場所は無く、念のため各部屋の絨毯の下まで確認したが隠し階段の類すら無かった。
その代わりに見つけたことと言えば、どの部屋もつい最近まで誰かが使用していたような形跡があり、掃除が行き届いていたことが印象的だった。ともあれ、俺たちは再度大広間に戻ってくる羽目になるのだった。
「結局、地下室へと続くような階段は無かったな…」
「そうだね、タクちゃん。ねえ…もう遅いし本当に家に帰らない?」
「せっかくここまで来たんだし、もうちょっとだけ探してみないか?」
「タクちゃん、さっきもそうだったよね…。あっ、そういえばさっきお手洗いに行ったときにこんな紙が落ちてたんだけど…」
そう言いつつ千尋は、自分のスカートのポケットから先程拾った紙を出して、俺に渡して来た。
その紙には、次のような短い文章が赤い文字で書かれていた。
『可愛い兎は 餓鬼が嫌い
醜い兎は 肉が好き
沢山来たら 手足食べたい』
「何だこの変な文章は…?」
「私も良く分からなかったから、とりあえずタク君に見せようと思って持ってきたの」
そう言って千尋は俺が持つ紙を覗き込んで来るのだったが、千尋の顔が近くなったことで彼女からシャンプーの様な良い匂いがするため、俺は紙の内容にあまり集中することが出来なかった。
そんな悶々とした状態で紙と向き合っていると、背後からかなりの重量のある物が倒れる音がした。
「今の音、何!?」
「後ろの方からしたぞ!?」
俺は手に持った懐中電灯を音のした方に向けると、そこには足の部分から体勢を崩した甲冑が倒れていた。
地面に落ちた衝撃のためか、首の部分にあたる兜は暖炉の付近まで転がっていた。
「何でこの甲冑倒れたの…!?」
「分かんねえ…さっき見た時は倒れる素振りすらなかったのに…」
倒れた甲冑を調べてみたが、甲冑はまるで鋭利な刃物を使用したかのように綺麗に切断されていた。
「この甲冑って結構重いし、本物の金属とか使っているんだよね…?どうして、そんな甲冑がこんなに綺麗に切れてるの!?」
「俺にも分からねえって!?とりあえず、俺たち以外にも誰かいるかもしれないってことだろうが…」
そう言いながら、俺はもしかしたらとんでもない場所に来てしまったのではないかとここに来て初めて後悔するのだった。
「タクちゃん、もう本当に帰ろうよ…!!私達、このままじゃもしかしたら殺されちゃうかもしれないよ!?」
「あ…ああ、そうだな!ここから直ぐに出ないとな!!」
俺はそう言って千尋と共に、入るときに使った大広間のドアへと向かうのだった。
「開かねえ…!?」
「どうして、開かないの!?さっきはここから入れたのに!?」
「くそっ!!そもそもこのドア、建物の内側から鍵を掛ける仕組みなのに何で内側から開けられないんだよ!?おかしいだろ!?」
俺はそう叫びながら、ドアノブを何度も押したり引いたりしてみたが、一向にドアは開く気配は無かった。
「もしかして、この建物の地下室に行かないと開かないとかいうオチじゃないよな…?」
「嘘だよね…!?そんなの怖くていくこと何か出来ないよ!?」
千尋は涙声になりながら、俺の推測が違うことを願って訴えかけてくるのだった。
だが、俺は何となくその推測が正解である気がしてならなかった。
「ともかく、さっきの甲冑が倒れた場所まで戻るしかないか…」
「あんな所にもう一度行くの!?私行きたくないよ!!?」
「だからって、このままこの場所に居ても安全じゃないと思うぞ。それなら、駄目元でさっきの場所をもう一回調べた方がいいだろ」
「うう、もうこんなところ来るんじゃなかった…」
何とか千尋を説得した俺は、なおも泣き続ける千尋と共に先程甲冑が倒れた大広間に戻ることにした。
再び訪れた大広間は、先程と全く変わった様子は無く静寂に包まれていた。
足の部分から切断された甲冑は、あまりの重さのため2人の力では動かすことが出来ず、これ以上調べても進展はないと考えられる。
そのため、俺たちは甲冑の頭の部分が落ちていた場所の周辺を調べることにした。
「ねえ、タク君…。この暖炉の奥に何かあるよ…?」
俺が甲冑の兜を調べる一方で、暖炉の方を重点的に調べていた千尋は何かを見つけたようだった。
千尋の声で駆け付けた俺は、暖炉にあった灰を全てどけるとそこには床下収納にあるような取っ手があった。
それを見つけた俺は、千尋を後ろに下がらせて静かに取っ手を持ち上げた。
するとそこには、噂の通り地下へと続く階段があった。
俺たちはその階段を使って静かに下に降りることにし、降りる順番は俺が先頭になり千尋は俺の後に恐る恐るといった感じで続いて来た。
地下へと続く階段は石造りで、他の部屋とは違い掃除がされていないためか非常に埃臭く、天井のところどころには蜘蛛の巣まで出来ていた。
正直言えば、下手なお化け屋敷の数十倍の怖さが漂う雰囲気がした。
また、長い間使われていなかったためか、埃の積もった石造りの階段には俺たちの靴跡がくっきりと残っていた。
もし、噂通りならばこの不気味な階段の先には拷問部屋があるということになるが、果たして俺たちは本当に無事に帰ることが出来るのだろうかと不安になりながらも、歩みを止めることは無かった。
少しの間、階段をひたすらに下り続けるとついに俺たちの目の前に古びた木の扉が現れた。
「この先に噂の拷問部屋があるのか…」
「本当に入るの、タク君…?」
俺たちはお互いに囁くような小声で会話をするのだった。
「どのみち、この建物から出られそうな手掛かりはここ位しかないだろうし、仕方ないだろ。千尋のことは絶対に俺が守るからよ」
「タク君…」
俺たちは、それから互いに励ます様に一言二言交わしてからついに扉に手を掛けた。
そして開けようとした瞬間、扉の先から不気味な雰囲気には不釣り合いな陽気な声が聞こえてきた。
『今日は楽しい、食事の日~♪
子供は嫌い、肉が好き~♪
永遠の悪夢、夢野ドリームランド~♪
ルールは簡単、ここから逃げろ~♪
紙の暗号、もうあるか~♪
無いなら戻れ、選ぶは2択~♪
頭が欲しい、足はいらない~♪』
その歌を聞いた後に扉を静かに開けた直後、俺たちは動きを止めることになるのだった。