ようこそ、夜の裏野ドリームランドへ!
ある夏の日の夜、〇県△市にある廃園となった『裏野ドリームランド』に俺たちは来た。
数年前に廃園となったこのテーマパークは、当時は沢山の来場者が来ており、園内だけでなく周囲の町も随分と賑わっていた。
だが、裏野ドリームランドの閉園と共に一気に町全体が寂れて行き、今では人が殆ど寄り付かない場所になっていた。
閉園の理由は、不思議なことに地元の者も含めて誰も知らなかった…。
不況の中でも、毎年有名なレジャー施設並みの来園者数を誇っていた裏野ドリームランドが経営難による閉園だったとは考えにくい。
そのため、閉園をきっかけに口コミやネットでは様々な憶測が囁かれていた。
例えば、「園内のアトラクションで毎年死亡者が出ていた」「裏野ドリームランドは墓地を取り壊して作られたテーマパークだった」「あの遊園地では度々子供が行方不明になっている」「ミラーハウスから出て来た者の中には別人みたいに人が変わった奴がいる」「裏野ドリームランドは実は異世界への入口だった」等、信憑性の在りそうなものから荒唐無稽なものまで様々だった。
だが、1つだけ確証を持って囁かれている噂があった。
それは「2人の男女が夜にドリームキャッスルの地下室にある拷問部屋を訪れると永遠に結ばれる」という噂だった…。
俺は家から持ってきた懐中電灯を片手に裏野ドリームランドの入口で立ち尽くしていた。
入口は頑丈な鎖と鍵で閉鎖されており、侵入出来るものではなかった。
だが、俺は諦めずに入口以外に何処か入れる場所が無いか懸命に周囲を探索した。
「もうやめて帰らない、タク君?」
後ろから心底つまらなそうな声で、俺の彼女である鏡千尋が声を掛けて来た。
「千尋、あともうちょっとだけ探してから帰るんじゃ駄目か?」
「それさっきから言ってるよ、タク君?私、もう眠いんだけど…」
そう言いつつ千尋は、スマホを見ながら欠伸をしていた。
俺がこの裏野ドリームランドに来た目的はただ1つ、もうすぐ高校を卒業する俺と千尋が大学に進学してからも付き合い続けることが出来るようにするためだ。
最初は俺もこの噂を聞いて半信半疑だったのだが、隣のクラスにいる別れる寸前とまで言われていた男女が、数日前に裏野ドリームランド内にあるドリームキャッスルの地下室に行ってからは見違える程に仲睦まじくなった姿を見たことでこの噂が本当なのだと確信した。
だから俺は、最近ちょっとギクシャクし始めた千尋との関係を元に戻すために裏野ドリームランドを訪れることにしたのだ。
「それにしても、隣の組のあいつらどうやってこの施設に入ってんだよ…?くっそ、これならここに来る前にもっと詳しく聞いておけば良かったな…」
「何独り言を言ってんの、タク君?それよりもう帰ろうよ。ここらへん何か寒くなってきたし…」
「あとホントにもうちょっとだからさ、な?」
そう言って俺は、なおも周囲を探索するが一向に中に入る手段は見つからなかった。
そして、諦めてそろそろ帰ろうとした時にそれを見つけた。
「あれ…?もしかしてこれって入口の鍵じゃね!?」
俺は入口から少し離れた所にあった、裏野ドリームランドのマスコットであるドリラビ君の右手に鍵が握られているのを見つけたのだ。
ドリラビ君とは、裏野ドリームランドの開園当初から存在する裏野ドリームランドの公式マスコットキャラクターである。
紫とピンクの縞模様のズボンに星形のベルト、黄色い蝶ネクタイとにやけた顔がトレードマークのピンクの兎であり、ワンピース姿で右耳にリボンを付けたウララビちゃんと大きなお腹でいつも食べ物を手に持っているノララビ君の2羽の妹と弟がいる設定のキャラである。
今まで何故気付かなかったのか不思議に思う位に目立つ場所にあり、その鍵には豪華な装飾に『入口用』という文字が彫られていた。
「あったぞ、千尋!!これで中に入れる!!」
「えー…。タク君、いくら廃園になった場所でも勝手に入っちゃって不味くないかな、やっぱり?」
喜ぶ俺とは対照的に、千尋は冷めた様子だった。
何はともあれ、俺たちは園内にあるドリームキャッスルを目指して足を進めることにするのだった。