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2016年/短編まとめ

死にたいの最上級

作者: 文崎 美生

「死にたいの最上級は生きたいなんだって」


忙しなく指先を動かし、ガンガン行こうぜモードな勢いで、目の前の敵を薙ぎ倒す。

敵がぶっ飛び、赤く染まる阿鼻叫喚な地獄絵図を表現しているところで、そんな声が掛けられた。


画面から一瞬だけ目を離し、忙しなく動く指先はそのままに、言葉を投げた相手を見る。

相変わらずとも言える、燃えるような赤い髪を揺らしながら、マグカップ片手にこちらを見つめる姿があり、それを確認して直ぐに画面に視線を戻す。


「それ、どこの誰の入れ知恵?」


「誰って言うか、歌詞かなぁ」


ガチャガチャ、コントローラーが悲鳴を上げる。

目の前の敵を一掃するためだけに動くキャラは、体力をほぼ満タンにしたまま武器を振るう。

近距離武器は、短刀よりも長物の方が扱いやすい。


「はぁ、何て言うか……無駄な知識を入れやがってってところかな」


コマンド入力で大技を出せば、あっという間に敵がいなくなる。

ドドンッという効果音と共に出る何人斬りの文字を見て、うーん、と首を捻った。


「それでね」


「うん」


(サク)ちゃんは、生きたいのかなって」


ザッザッザッとキャラクターが移動する足音が響く。

地図を画面の端っこに表示してあるので、向かうべき場所にはマーカーがあるので、そこを目指すだけだ。

時折襲ってくる敵を迷うことなく、一発で仕留めていく姿は、凛々しい。


隣に座り込んだ彼女は、やはりマグカップを持ちながら首を傾げている。

そのマグカップの絵柄は、見覚えのあり過ぎるもので、名言まで書かれているから、確実にボクのだ。

何でボクのを使ってるんだろう、という疑問を頭の片隅に置き、ふわりと漂うカカオの匂いで鼻が上下する。


「死にたいは死にたいだよ」


コントローラーを握る手に力が入る。

控えめに向けられた視線は、ボクの首に突き刺さっており、身を捩った。

昨日は首吊りに失敗した結果に、首には細い縄の跡がクッキリと浮かび上がっている。


特別隠したいものでもなく、引きこもり体質なために外には出ないので、Tシャツにパーカーと首元は無防備なもので、その跡は誰にでも見えてしまう。

見たくなくても見えてしまう、というのは、相手にとっては不快極まりないことなのかも知れない。

自分とそれ以外の間には、身内でも幼馴染みでも、見えない線引きがあるのだ。


「……そうなの?」


画面に視線を戻したけれど、彼女は身を乗り出しで顔を覗き込む。

元々下がり気味の眉と瞳が、更に下がっているように見えるのは、きっと気のせいではないのだろう。


近付いた顔に合わせて身を逸らす。

画面が見えないせいで、何かが切り裂かれる音がして、適当にボタンを弾く。

その間も、こちらの顔を覗き込む彼女は、色素の薄い瞳を閉じたり開いたり。


「そうだよ」


素早く答えて体を横に倒す。

画面の中のキャラクターの体力はいつの間にやら半分程になっていた。

ここでアイテムを使うべきか、まだまだと走り続けるべきか。

体を横にしながら考える。


「ねぇ、作ちゃん」


「んー?」


横になったボクを元の位置に座り直して見下ろす彼女は、マグカップに口を付ける。

甘い甘い匂いでお腹が空きそうだ。

思い返せば昨日の夜から何も食べていない気がする。


「……生きたいね」


視線を向ける。

目が合えば、にっこりと効果音が付きそうな笑顔を向けられて、うーん、と一つ唸って見せた。

何とか反動を付けて体を起こす。


「……そうだね、いきたいね」


画面の中のキャラクターが悲鳴を上げた。

ゲームオーバーの文字と、眉を下げた彼女を見て、舌打ちをしたくなった。

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