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生き返り

 朝学校に行くと、僕の上履きは当然のようにどこかへ消えている。僕が買った上履きはすべて意思を持って、なおかつ旅好きなのだろうか。とすると、僕はちょっとした能力者だ。しかし、彼らは意思を持ち過ぎているようで独り立ちしてしまうのだ。彼らの意思は決して弱くないのだが、人間様にはどうにも勝てないようだ。なぜなら、僕の名前の書かれた上履きをゴミ箱や裏庭に捨てられているのを見かけたことがある。なるほど、確かに上履きが一人でその辺を歩き回っていたら落ちている、そう思ってしまうのは当然であろう。しかし、上履きが落ちていたといってゴミ箱に入れるであろうか。記名もされているのに。


 僕はすでに気づいている。いじめられているんだと。


 話しかけられれば、お金の話、暴力を受けることも多い。しかし、僕がいれば他のクラスメイトが平和に暮らせることにも気づいていたため僕は耐えていた。2週間前のあの日までは。


 あの日、クラスで唯一僕に話しかけてくれたクラス委員長の女の子が僕に話しかけるなと忠告されているのを見かけた。その後も、彼女はその忠告を無視し話しかけてきてくれた。そもそも、この忠告に何の意味があるのだろうか。僕は決して理解出来ない、理解したくない、そう思ったのである。予想としては僕をひとりぼっちにすることで、仮に僕が教師にちくった際にいじめの主犯が動きやすくするそんな算段なのだろうが。しかし、その忠告を無視した彼女もまたいじめられ始めた。終いには、彼女は学校へ来なくなってしまった。


 僕の存在意義は一体何なのだろうか。


 クラスメイトの平和のために僕は、少なからず働いていた。しかし、僕の働き空しく平和は乱された。ならば、僕が生きている意味は何なのだろう。存在意義は何なのだろうか。


 生きるのに疲れた。


そんなことを考えていると僕は気づいたら学校の屋上にいた。やはり、僕は能力者なのかもしれない。ほら、今も上履きは僕を運んだのだから。そして、僕の能力は制御が効かなくなったようだ。柵を越えて飛び降りようとしている。おいおい、君の所有者の言うことを少しは聞いたらどうだ。でも、まぁいっか。僕の足は言うことを聞いてくれない。僕の本心はそういうことなのだろうと納得してしまった。右足を一歩前へ踏み出すと、重力は僕の左足の踏ん張り空しく地面へと僕を引っ張る。意外と、地面は近い。このまま、頭を強打して僕は死ぬのだろう。


 僕が死んだら、悲しんでくれる人はいるのだろうか。


 涙を流してくれる人はいるのだろうか。


 少なくとも、家族は悲しんでくれるだろうな。同じ学年の人、クラスメイトはどうだろうか。考える必要もないか。


 悔しいけれど、僕の人生はこれまでだろう。来世は充実した毎日を過ごせればいいな。


 








「ねぇねぇ、起きて」


 天国いや、地獄か。存在意義を失ったのだから。あたりを見回すと、真っ青であり所々綿菓子のようなものが浮いている。あぁ、空か。あの世って、空にあるんだな。


 「君、ここをあの世だと思っているでしょ。違うから。ここは、あの世の一歩手前と言ったところかな。君は後悔の念が強すぎて、生き返りが珍しく許可されたのよ。あくまで、君がしたいと言ったらだけど」


 何をこいつはベラベラと。ついていけないなぁ。それなりに成績はよかったのだけれど。


 「ほらほら、君のお通夜が始まるよ」


 これに関しては理解出来る。僕は死んだのだと瞬時に理解できるし、それに先ほど後悔の念が強いと言われたことを察するに僕自身の葬式を見せることで後悔の念を消そうとしているのだろう。しかし、生き返りとはいったい何なのだろうか。


 僕は下を見ると、遠いはずの地上を間近で見える。


 「驚いた?幽霊が自由に動けるのはなんとなく予想着くでしょう。それを今やったの。簡単に言うと、君は絶賛君のお通夜の現場にいてそれを見ていることになるわね」


 こいつはまたベラベラと。しかし、自分のお通夜を見るというのは興味が湧いて仕方がない。喪主であるであろう、僕の父が挨拶をし終えるとお焼香をし始める。僕の家族はもちろん、学校の先生など駆けつけてくれたらしい。


 『何で死ぬなんて、選択肢を選んじゃうんだよ。少しでいいから、相談してくれればいいだろう』


 涙ながらに、語ってくれた男子学生がいた。同じ制服であるが故にひときわ、目に付く。その姿を見て、僕の母はこらえられずにいた。僕も少し目頭が熱くなってしまう。一体、誰なのか。それはいっこうに分からない。彼の友達も一緒に来てくれたようだ。その姿には見覚えがある。


 あいつらだ。僕をいじめていた主犯であり、委員長をも苦しませているやつらだ。


 お焼香を済ませた彼らは、席に戻る。その際、彼らの口元はしっかりと笑っている。まるで、今の僕に見てるかと語りかけるように。


 そうして、僕のお通夜は終わった。悔しさばかりが残っていた。彼らの言うとおり、僕は選択肢を間違えたようだ。


 「なぁ、生き返りって言葉の意味そのままか」


 「そうよ。ただし、期限は2週間。2週間経ったら、君はまた死ぬことになる。その時は、少なくとも天国には行けないわね」


 僕はともかく、委員長をいじめたこと、わざわざ僕のお通夜に現れたこと、悔しさが残る。死んだことがとんでもなくばからしく思える。生き返りというチャンスをせっかくもらったんだ。これを活かさない理由はない。


 「僕を生き返らせてくれ」


 意思は堅い。僕にはやりたいこと、いや、やらなきゃいけないことばかりある。


 「きみのやりたいことは、大体分かるよ。委員長が学校に来なくなるちょうど2週間前に再び生き返らせてあげよう」


 こうして僕は再び生きることができた。一度、捨てた命。そして、どうせまた死ぬのだ。文字通り、死にものぐるいでやってやる。彼らに、死にたいと思わせてやる。

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