第九話 指名依頼
今回から今まで五千文字前後で一話としていたところを、更新速度を上げるために、三千文字前後で一話とすることにしました。ご了承ください。
6/19 全ての話のサブタイトルを変更しました。
「あ、ライオネルさん、おはようございます」
「ん、ロップか、おはよう。ここ、いいか?」
「えぇ、もちろん!」
鍛錬を終えたライオネルが食堂へ向かうと、そこには昨日会ったロップが居た。ロップに挨拶すると、彼女に断って向かいの席に着く。
「ライオネルさん、ロップちゃん、おはようございます! ってあれ? 二人とも知り合い?」
「おはようリーナ。昨日ちょっとな」
「おはようリーナちゃん! ライオネルさんとは昨日ここの入口で会ったんだ」
「そうだったんだ~。あ、これ朝食ね。ごゆっくり~」
リーナは二人分の朝食を置くと、すぐに厨房へと行ってしまった。朝の時間帯は客が多く忙しいので、リーナとゆっくり話す暇は無い。
「もうリーナと仲良くなったのか?」
「はい、昨日会って。リーナちゃんも宿に女の子が居なくて寂しかったみたいで、すぐに仲良くなれました!」
朝食を食べながら話すロップはとても楽しそうだった。
「そういえばライオネルさんも収集者ですよね?」
「んぐっ、そうだが」
「何級なんですか?」
「俺は五級だ」
「わぁ、やっぱり先輩なんですね!」
「いや、収集者になってからまだ数日しか経っていないから、先輩ではないかなぁ」
「え!? じゃあ入ってすぐに昇級したんですか!?」
ロップはライオネルがものすごい早さで昇級したと思い、たれ耳がピンと立つくらい驚いた。
「なんかギルドの方針で、獅子人族に六級の依頼を受けさせるのはもったいないと思ったらしいから、五級から始めさせてくれたんだ」
「獅子人族だとそうなんですか?」
「あぁ、らしいな。俺ら獅子人族は子供のころから魔獣を狩るんだ。だから六級は飛ばしたんじゃないか?」
「なるほど~。六級の依頼は草木や石の収集が主な依頼ですからね。そこで魔獣の居る環境に慣れる意味合いも兼ねていますから、獅子人族の方にそれは不要だということですか」
ギルドの意図を読み取ったらしいロップは、したり顔で何度も頷いていた。
「私、五級の依頼をまだ見てないんですけど、どういったものが多いんですか?」
「ん~、基本的には狩猟が多いんじゃないか? 俺も五級の依頼はまだ二回しか受けていないが」
「何を狩りました?」
「昨日はワイルドボアを狩った」
「ワイルドボアですか!? 一人で!?」
「あぁ、故郷ではよく狩っていたから慣れてたんだ」
ワイルドボアを一人で狩ったというライオネルに、ロップはまたもやたれ耳を立てて驚いている。ライオネルにとってワイルドボアの狩猟はいつものことなので、ロップがそんなに驚く理由が分からなかった。
「ワイルドボアを一人で狩るなんて五級の収集者じゃあり得ませんよ! 一人で倒すなら罠を張って何日も待ち続けるのが普通なんですよ! ライオネルさんって強いんですね!」
「うーん、俺にはよくわからん。村では俺より強い人なんていっぱい居たからなぁ」
あの村で生き残っている男は皆、強い魔獣がごろごろ居る森で狩りをし続けている者たちだ。森や魔獣をよく知っているだけでなく、魔獣との戦いで培われた経験や戦闘能力が圧倒的なのである。
「ロップ、今日は依頼を受けに行くのか?」
「はい、お金を稼がないと宿に居られませんからね!」
「なら一緒に行こう」
「そうですね、そうしますか」
朝食を食べ終えたライオネルとロップは少しテーブルでゆったりしていたが、ライオネルがロップに声をかけてギルドに行くことにした。
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「わぁ……今日も人がいっぱいですねぇ……」
「そうだな……」
ギルドに着いた二人は相変わらずの混雑っぷりにげんなりとしていた。広場を占拠する蛇のように曲がりくねった収集者の列、掲示板の前にできた黒山の人だかりも、ここ数日で見慣れてしまった。
「お互い頑張っていい依頼を見つけましょうね!」
「ん、そうだな」
ライオネルを見上げて胸の前で拳を作るたれ耳兎娘にライオネルはほんわかとした気分になった。
「ラ・イ・オ・ネ・ル・さ~ん」
「ひぃっ!」
「……ん?」
そんな二人の後ろから忍び寄り、ライオネルを下から見上げて地の底から聞こえてくるような声を出していたのは―――、
「……なにしてるんだ? カガシィー」
―――報告カウンターのカガシィーだった。
「なんだか朝の忙しさで殺伐としたギルドにふさわしくない青春な香りが漂ってきてたから、いまだに春の来ない私が僻みに来たのよ」
「青春な香りって何だ? そんな匂いするか?」
カガシィーに言われてライオネルは自分の匂いを嗅ぐが、青春の匂いがどんなものか知らないライオネルには分からなかった。
「真面目に受け取らないで、ちょっとした冗談よ。ホントはライオネルさんに指名依頼があるから声をかけたのよ」
「指名依頼ですか!? すごいですねライオネルさん!」
「指名依頼ってなんだ?」
「指名依頼」という言葉を聞いたことがある気がするが、どんなものだったのかライオネルは思い出すことが出来なかった。
「登録の時にコティーから説明があったはずよ? でもいいわ、もう一度説明するわね。指名依頼って言うのは文字通り誰かから指名されて受ける依頼のことよ。その依頼者はギルドだったり個人だったりといろいろね。指名依頼は基本的に普通の依頼よりも報酬がいいわ。成功報酬金が高かったり、ギルドの評価点が高かったりするわね。」
「ほう、その指名依頼が俺に来たと?」
「そう、ギルドからの指名依頼よ。受けるつもりなら受注カウンターじゃなくて、報告カウンターに来てね。私が処理するから」
そう言ってカウンターへと戻っていくカガシィーを見送っているとロップが感心したように話しかけて来た。
「ギルドからの指名依頼って信用が無いと普通来ないらしいですよ! 信頼されてるんですね~」
「まだ依頼を三つしかこなしてない俺にギルドが信用するのかはよく分からないが、とりあえず話を聞いてくるか」
「あ、じゃあここでお別れですね」
「そうなるな。良い依頼があるといいな」
「はい、ありがとうございます!」
ライオネルはぶんぶんと手を振るロップと別れて、カガシィーの座る報告カウンターへと向かった。
すでにカガシィーはカウンターの上に依頼書と思われる紙を置いて、ライオネルを待っていたようだ。
「話を聞かせてくれ」
「えぇ、今回の指名依頼はワイルドボア一頭の狩猟ね。なるべく良い状態で持ち帰って。そうすれば評価点を多く加算するわ」
「またワイルドボアか?」
ライオネルは昨日狩ったばかりの獲物をまた狩るという事に怪訝な顔をした。
「なんだか最近森の浅い所でのワイルドボアの目撃が増えてるのよ。本当はもう少し深い所に居るはずなのに……。だから浅い所のワイルドボアを狩って、採取系が主な収集者の安全を確保しようってことになったの。あなたはワイルドボアを一人で、無傷で、簡単に倒せるようだからギルドが指名したのよ」
「ふーん、まぁ別に難しい依頼じゃないし受けるよ」
「ありがとうライオネルさん。依頼の期限は二日後の朝までね。依頼の受付処理はこちらでやっておくわ」
「わかった、じゃあいってくる」
「受けて当然よね」というような顔をしているカガシィーになんだか釈然としないものを感じながら、ライオネルはギルドを出て森へと向かった。