第一話
読んでくれた方、ありがとうございます。 不定期連載で楽しみたいと思います。
…なぜ僕は追われているんだろう…
…本当に必死で逃げまわっている時というのは、その理由さえ忘れてしまうものらしい…。
…追っ手の叫び声. 足音. 殺気が少し遠ざかったようだ。
追いかける足より逃げ足の方が速いというのは、生き物の七不思議の1つに加えてもいいのではないか。
…少し考える余裕が出来たらしい。 息も整ってきた。
今のうちに思い出してみることにしよう。。
この物語がはじまってしまったワケを…
11月。ようやく涼しくなってきた。
とはいえ、シャツを半袖にするか長袖にするか、毎朝迷う日々だ。
ここ最近の平均気温26度。 今の時期が一番過ごしやすいかもしれない。 唯一の欠点と言えば、紅葉が見れないということか。
街のメインストリートは、修学旅行生や、外国人の観光客で溢れている。 『国際通り』とは、よく言ったもんだ。
並ぶお店の6割がお土産屋で、3割が食べ物屋(多分それぐらい)。
残り1割の中に、僕が働いている店がある。
商品は主に民族楽器。
それも、この地に古くから伝わる『五線』という弦楽器だ。
何年か前に、有名なミュージシャンがこの五線を使ったことで、一気に知名度が上がった。
当然、流行に乗った五線はよく売れ、店は繁盛した。
しかし、最近はさっぱりだ。流行りは過ぎ、値段が高いことも手伝って、買う人が激減してしまった。
前置きが長くなってしまったが、要するに暇である。
3万円程度の五線なら一日一本くらいは売れるが、10万円以上の代物となると、そうそう売れるものではない。 なので、滅多に売れない物を買っていくお客さんというのは、印象に残るものだ。
そんな人に限って、変わり者が多い…というのもある。
そして、この日の客も、まさにそういう感じだった… 夕方。 朝から我慢していた雨雲が、ついにベソをかきだした。
街全体が薄暗くなり、あっという間に歩行者はいなくなった。
僕はレジが置いてあるテーブルに肘をついて、窓越しに外を眺めていた。
溜め息が止まる気配は無い。
もう1人の従業員が、何時間も動かないレジを見つめながら言う。 「もう店閉めて飲みに行くか!」
これは彼の口グセである。
閉店時間まではまだ数時間ある。
にも関わらず、
「行くか!」 と言ってしまう。
実際にはそんなことはしないのだけど… 単なる暇潰しの方法の一つだ。
あれやこれやと、酒やつまみの話しで盛り上がっていると、ふと、店のドアの開く音が…。