詩調 -フミヅキ-
家を出ようとすると、新しい妹が8輪生まれていた。
オレンジのドクターファウスト。
まだ蕾だけれど、綺麗に咲くようにと、ロゼはキスをする。
いつもの噴水に行く。
しかし、ルクスは来ていない。
いつもの時間を過ぎても来ない。
30分
1時間
沢山の時間と人混みが去ったが、結局、ルクスはこの日現れなかった。
ロゼは気を落とした。
段々と、ルクスが来る時間が遅くなっている事にも気付いていた。
嫌われちゃったのかな。
だったらなんで昨日あんな……。
嫌な思考が巡る。
「………………帰ろう」
立ち上がると、もう辺りは真っ暗。
気持ちとは反対に、光り輝く月に、ロゼは苛立つ。
「………………ロゼ?」
「えっ」
声の方を向くと、そこには月明かりに照らされたルクスの姿。
「待っててくれてた……んだね。 ごめん」
「ううん。いいの。私が勝手に待ってただけだから」
「違うんだ! 本当にごめん。実は……俺の友達が、家に帰ってないんだ」
「え?」
「ロゼと話してて、友達が欲しくなって、思い切って話してみたら、仲良くなれたんだ」
「…………」
「それで、今日も行ってみたら、皆……家に帰ってない。居場所も分からないって…………。ずっと探してたけど、結局見つからなかった。こんな……8人共、いなくなるなんて…………」
話しているルクスの声は、段々と嗚咽混じりになっていく。
目ももう真っ赤になっている。
二人の間に沈黙が流れる。
「…………今日はごめんね」
沈黙を破ったのはルクス。
「……! いえ、こっちこそ」
「送るよ。家どこ?」
「…………っ! ダメ!!」
「…………え?」
「ぁ…………」
優しい言葉をかけたルクスに対し、ついロゼは怒鳴ってしまった。
今連れて行ってしまえば、母達はルクスを食べてしまう。
それをさせない為が故にだった。
が、ルクスにそれが伝わる訳もない。
「わ、私の家……さ、『誰も連れてくるな』って言われてるの」
咄嗟に嘘をつく。
「え……でも、この間『私の家に来ない?』って」
「…………っ」
ロゼは絶望する。
今から何を言ってももう駄目だ。
「………………」
ロゼはもう言葉が出ない。
「……何か事情があるんだよね。ごめん」
先に謝ったのはルクスだ。
ロゼはそのアンクルウォルターの様な目を丸くする。
「え…………」
「俺の家にも事情があるなら、ロゼの家にあってもおかしくないでしょ?」
「そう……ね。ありがとう」
この優しさに惹かれたのだと、改めて感じる。
だが、ルクスの態度は出会った頃から変わらない。
その事を嬉しくも思い、同時に少し絶望した。
「それじゃあ、もう帰ろうか。気を付けてね。最近物騒だから」
「うん……ありがとう」
その原因はほとんどロゼである。
故に、ロゼは安心して帰る事ができる。
そして、決心した。
《もう、食事は辞める》
「ルクス!」
振り返り、ルクスに話し掛ける。
「?」
ルクスもその声に振り返る。
「これ……食べられる?」
ロゼが手渡したのは、飴玉の入った小さな小瓶。
「……うん。苦手だけど、今なら平気な気がする」
「そう。ならよかった」
ロゼとルクスは微笑みあい、そして「また明日」と別れた。
小瓶に入った飴玉は、ローズの香りのする、真っ赤なもの。
15個 入っていた。