見ナ尽キ -ミナツキ-
………………いつまでついてくるんだろう。
そう思いながら、歩み続ける。
家が見えなくなった所で、後ろから肩に強い衝撃を受ける。
左肩を掴まれた。
そして強制的に振り向かされ、また強く、両肩を掴まれた。
掴んだのは考える必要もない。
少年だ。
だが、その顔は怒りで満ちている。
恐怖をまだ知らないロゼでさえ、顔を強ばらせる。
「何で…………」
俯き、絞るかのようにして声を出す。
声は震えている。
「何でこんな事!!!! あの人がどんな人か知らないだろ!? 平気で美人局や詐欺をする様な、どんな手段でも使ってお金を手に入れようとする人だ!」
いつもの穏やかで、柔らかい面持ちの彼とは思えないほどの気迫。
「失礼だけど、そんな感じはしてた。だからこそよ。私が気に入られれば、逃がさないようにと、貴方に危害を、今以上に加える事はないでしょ?」
微笑んでみせる。
未だかつて抱いた事の無いような感情を、少年に抱いている事に、ロゼは気付いた。
しかしそれと同時に、この感情を悪くない、愛おしいとも思えた。
「………………っ!! 違う!! 俺が言いたいのはそうじゃない!! 俺の事なんかどうでもいい!!」
そう言って、
ロゼを強く、抱きしめた。
今まで経験した事の無い衝撃に、ロゼは頭が白くなる。
最初は強過ぎて痛いと感じていたが、段々と優しいものへと変わっていく。
彼の髪が顔にかかり、くすぐったい。
力強く抱きしめられた事により、口にあたる肩。
いつも座っていたり、少し離れていたせいで、こんなに身長差があり、男だとは知らなかった。
それに、彼は今まで愛を与えられていないにも関わらず、こうして私に優しくしてくれる。
「愛してる」と言葉をくれる母達以上に、言葉ではない彼の行動で、愛情をロゼは、思いを巡らせ、感じた。
「ごめんね。俺はルクスじゃない。名前なんて無いんだ」
「いいのよ。ルクス。いいのよ」
今更ながら、彼を、ルクスを抱きしめ返す。
「……っ だから違
「違わない。貴方が名乗ったんだから、貴方はルクスよ」
「…………………っ」
少し、嗚咽が聞こえる。
必死に噛み殺そうとしているけれど、僅かに聞こえる。
ロゼは聞こえない振りをした。
「……初めてだったんだ」
泣いているせいか、いつもより低い声。
そんな声で、耳元で話され、ロゼは頬をエマグローテンドルストのように染める。
「あんな風に話しかけられたのも、名乗ったのも、話をするのも」
「……そう」
突如スイッチが切り替わったかのようにバッと自分とロゼを離す。
「ごっごめん……! つい……」
右手で顔を隠し、左手を言い訳をするかのように動かしている。
けど、残念な事に目を恥ずかしそうに歪めている事も、顔がフェリーポルシェの様になっているのもバレバレだった。
それを見てロゼは微笑み、くすくすと笑った。
「もう遅いし、暗いし送るよ」
ルクスが以前の様に言う。
「いえ、大丈夫よ。ありがとう」
ロゼは2度目のチャンスも失った。
いや、ロゼから手放した。
しかも、愛を知り、さぞ美味しくなったルクスを。
その代わり、子供を8人、連れ帰った。