綺愛戯 -キサラギ-
物思いしながら少女は街を歩いていた。
母達から「私達には毒がある」と聞かされた。
「恋をしていない者はその香りによってたちまち魅了され、骨抜きになり、身が朽ちるまでその場に留まり続ける」
「恋する者は、その愛が強くなり、やがて病んでしまう」
自分は人間ではない。
母達から作られた人形。
こんなにも人が振り返り、寄ってくるのは、香りがあるからか。
これは、母達の願いを叶える為、母達からの贈り物なんだと色々と思考を巡らせ、頬が緩む。
とうの昔に水の出なくなった噴水の傍にロゼの見た目とそう変わらないであろう少年がいた。
いつも通り連れ帰ろうと近くにより、お菓子を差し出す。
「これ、あげる。こんなところでどうしたの?」
少年が少女に気付き、目を見開く。
「うわぁっ!!」
そう叫んで手を払う。
差し出した飴が落ち、割れてしまった。
「あ……。ごめん……なさい」
「ううん。いいのよ。こちらこそごめんなさい」
少年は顔を暗くし、謝罪する。
少女は微笑み、優しく言うが、内心は少し苛立っている。
早く連れ帰ろう。
「お詫びも兼ねて、私のお家に来ない? 美味しいケーキがあるの」
「……気持ちは嬉しいけど、やめておくよ。有難う」
…………あれ?
おかしい。
今までの大人や子供は、こう言えば目が虚ろになって、大人しくついてきた。
……断られた事なんて無かった。
「…………そう」
「それじゃあ、俺行くね。本当にごめんね」
「いえ、いいの」
家に帰り、母達に話した。
毒が効かなかった子供がいると。
母達は大層驚き、喜んだ。
「その人間は愛を知らないのだろう。お前が教えておやり。そしてここに連れておいで。他の人間とは比べ物にならない程美味しいだろう」と。