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紫月
1人の男は、焼け焦げた屋敷の中を徘徊していた。
その火災の元となった松明と、その松明に炎を移したランタンを携えて。
もう屋敷には生き物の気配はない。
だが、男は求めていた物を見つけた。
十字架の石碑に荊を絡め、三輪の薔薇が咲いていた。
蜘蛛と蜘蛛の巣の模様が刻まれた、青い薔薇。
蜂の巣と蝶の模様が刻まれた、赤い薔薇。
そして、月と炎の模様が刻まれた、紫の薔薇。
男は、傍に落ちていた鋏で摘もうとする。
だが、切り落とされるとすぐに灰になってしまった。
男は摘む事を諦め、灰を集め、持ち帰った。
「『あいつ』の言う通りなら、これで作れる。…………楽しみやなぁ」
男は楽しげに呟き、もうここには用は無いと、その場を後にした。