嫌唄 -ケンバイ-
ルクスはある場所へと向かっていた。
ドアを開け、中にいる人物に話し掛ける。
「久しぶり。かあさん」
「ん? あぁ あんたか。生きてたんだねぇ」
そう言って煙草を吹かす。
「まぁね」
「そんな事より、あんた身なりが良くなったねぇ」
にやにやとしながら、ルクスに近付く母親。
「あぁ。僕、養子になったんだ。今日はその報告と、それから、僕の義母さんが、挨拶したいって」
ルクスは歪んだ笑顔を魅せる。
「ふぅん。そこで待ってな。準備する」
下着姿だった母親は、胸元の開いた派手な服を身に包む。
そして、バラの香水を振り撒いた。
…………あぁ。臭い。
偽物のバラの臭い。
ルクスはそう思いながら、しかめそうになる顔に平静を装う。
「行くよ」
母親を連れて屋敷へ向かう。
今回は、荊に襲わせない様にした。
「ふぅん。こんなとこに屋敷があったんだねぇ。なかなか金持ちそうじゃないか」
「……まぁね」
門を開け、屋敷の中へと入り、奥へと歩み進める。
そして、中庭のドアを開けた。
「何だいここは……。あれ……あん時の嬢さんじゃないか。あんた何かんが
ザクッ
え………………」
ルクスが鋏を母親の背中に突き刺した。
「今まで鼠扱いしてた餓鬼にこうされる気分はどう?」
地面に這い蹲う母親に言う。
「がほっ……お、まえ…………」
そんな苦しむ母親を見据えながら、ルクスは淡々と話す。
「最初は、今まで通り荊に襲わせるつもりだった。けどね、ロゼを見てて思ったんだ。母親は、大事にしないと……ってね」
残酷な美しい笑顔をするルクスに、母親は段々と青ざめていく。
「荊に刺されて死ぬよりも、僕が殺してあげる方が楽だと思って」
「い、嫌だ! 死にたくない! 私が悪かった!」
母親はルクスの足に縋り付く。
「悪いけど、そういう命乞い、もう聞き慣れちゃったんだよね」
そう言ってルクスは足に絡まった母親の両腕を蹴り離して、顔を鷲掴み、真っ赤になった鋏を向ける。
「嫌だ! 何でもするから! 何でもするからぁ!! 頼むよルクス!!!」
ザグ グチャ
もう言葉を発さなくなったそれを、憎しむ目で見下ろす。
「今まで言われた言葉で一番嫌だったよ」
手首を掴み、引きずって場所を移動させる。
そして、外に出ると、薔薇の群れに放り投げた。
「あれはロゼには食べさせられない」
激しい咀嚼音を聞きながら、ルクスは呟いた。
傍らに、一つのデザートローズが転がった。