赤傷 -セキショウ-
屋敷の中へ入ると、自然と足が動く。
そのまま進んでいくと、重そうな両開きのドアがあった。
押して入った部屋の中央に、十字架の石碑。
地面に座り、それにもたれかかり、茨によって縛られている虚ろな目をしたロゼ。
その姿に、ルクスは固唾を飲む。
「…………ロゼ。ここにいたんだね」
膝をつき、ロゼの頬を優しく撫でる。
「やっぱり、見間違いじゃなかった。髪、白くなっんだね。」
髪にキスをする。
「…………会いたかった」
ロゼの両頬に両手を添え、額と額を重ねる。
「逢瀬は終わった?」
「…………っ!」
その言葉が発せられた刹那、薔薇の毒がルクスを襲う。
甘い香り。
多くの人間を魅了し、骨抜きにした香り。
ルクスはその毒を、肺腑の奥まで吸い込んでしまった。
しかし、ルクスは息を止めようとはせず、逆に吸い込み、目を閉じ、その毒に浸った。
「……ねぇ。俺が用意してあげよっか? 貴女達の食事」
目を開け、微笑んだ彼の左目は、アンクルウォルターの様だった。
気付いた頃には遅かった。
ルクスは薔薇の意識を取り込み、やがて人の形をした薔薇へと変貌した。
ロゼよりも完璧なものとして。
薄れ行く意識の中、薔薇は最後にロゼへの皮肉を思った。
あの子は本当に出来損ないだった。
私達薔薇よりも人間に近かった。
それに、毒に気付かないなんて。
この男は、誰よりも、毒が効いていたじゃないか。
「安心してよ。僕が、貴女達の養子になって、食事を連れて来てあげる。ね? 義母さん」