6:レントゲン検査
すぐ隣の検査室で受診票を渡すと、眼鏡をかけ、神経質そうな顔つきをしたやせぎすの男性看護師が「ではそこの機械の前に立ってください」と指示してきた。
言われたとおり機械――俺の体を撮影するためのレントゲン撮影機――の前に立つと、看護師は正確な撮影のため、背後から俺の腕や腰の位置を調整してくる。
「はい、腕をもっと開いて。ひじから先を下に」
「はい」
「あごを前にしっかりのせて。あ、ひじは直角に」
「はい」
「ひざは両足とも伸ばして。あ、伸ばしきらず、軽く曲げて」
「はい」
「顔は正面に向けて。視線は遠くに投げるように。指先はそろえて」
「……はい」
「つまさきは外側に広げて。胸をもう少し張って。そうそう、そんな感じ。ああ、少し戻して」
「……はい」
「右肩が上がり過ぎています。気持ち下げて。3センチ程度。それから左ひざを少しだけ曲げて――ああ、曲げ過ぎです。少し戻して。2.5センチ程度」
「…………はい」
「ひじを直角に。右を2°内側にして下さい。胸を機械に押し付けるように、でも腰は伸ばして。そう、少し反るように。あ、また右肩が上がっています」
「…………はい」
「目は正面をみつめて。人差し指が2ミリ曲がっています。伸ばして。首が横に1°左に傾いていますので、まっすぐに。足指はぴったり32°の方向にむけて下さい」
「………………はい」
「右の眉を2ミリほど下げて。口元も力を抜いてください。では大きく息を吸って――ああ、左肩が下がった。わずかに上げて。胸も少し反ってしまったので、2.2センチ機械に近づけて下さい。あ、胃を1センチほどふくらませて。心拍数を1分につき2拍減らして。十二指腸を」
「すみません」
俺はガチガチに固められた体勢を全てほどきながら、後ろの看護師をふり返った。
「……無理です」
俺の言葉に、看護師は驚いた顔で答えた。
「なんと、そのくらいのことができないのですか! これではX線検査は――」
「いや、条件が厳し過ぎるでしょ。胃を動かすとか、心拍数を減らすとか、ふつう無理だし」
「そんなバカな……。こ、これで僕が今日撮影できたレントゲンは0枚だ。どうしてこんなことに……みんな、どうして理想のX線撮影に応じてくれないんだ……!」
理想が高すぎるんじゃないでしょうか……。
俺は頭を抱える男性看護師を前に、心が折れるのを通り越して途方にくれていた。
「あの……もういいでしょうか。次の検査に進みたいんですけど」
「こ、このままでは――X線検査を終えるまでは次の検査に進めませんので……み、宮内さんには胃のX線検査を受けて頂きます!」
つまり、いままでの受診者はみんな胃のX線検査になったってことだな……。
「胃部レントゲン検査は、すぐ隣の部屋です。どうぞお進みください……」
彼は無念そうに、次の検査室である隣の部屋を指さした。
さっき腹囲検査をした、隣の部屋を。