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5:腹囲計測


 十一番の検査室の前にある長イスに座っていると、目の前の部屋からグラマーな女性看護師が現れた。


「あなたが宮内さん? ようこそ『未華子の腹囲計測室』へ。どうぞお入りになって」


 なぜか妖艶ようえんな語り口調で、俺を部屋に招く彼女。

 ――もうすでにイヤな予感しかしないんだが。


 入り口のカーテンを閉めると、看護師にしては鮮やかな唇のルージュが目立つ、俺よりやや年上とおぼしきお姉さん風の看護師は、巻尺を手に俺の前にしゃがみこんだ。


「じゃあ、いまからおなか周りを測るわね。上着のすそを上げてみて」


 俺がすそを少し上げると、看護師は侮蔑するような笑みを浮かべた。


「あら、だらしのないお腹ねえ。若いくせに、脂肪でゆるゆるじゃない」


 言うが早いか、彼女は俺の腹を指でこついた上にむにゅっと横腹をにぎってくる。


「ああっ?」


「やん、かわいい声。もっと聞かせて」


「や、やめて下さいって」


「あら、これも検診よ。あなたの健康のための、ね」


 笑みを浮かべる看護師は、さらにむにゅむにゅと俺の腹周りに触れる。

 妙な感触を受けつつもがまんする俺。にしても、看護師がなぜか幸せそうにニヤニヤしているのが気になる……。


「――どう?」


「は、はあ、なにがでしょう」


「えっ、まだ分からないの?」


「はあ、まあ……」


「おかしいわ。年上のお姉さんがひざまづいて男のお腹をまさぐっているというのに、どうしてあなたは高揚感と支配感で満たされないの」


 なんのプレイですかそれ。


「いや、支配感とか……健康診断で必要ですか?」


「当たり前じゃない。これは女性に対する男性としての精神状態の健全さを見る検査なのよ。いったい何の検査だと思っていたの?」


 腹囲検査だと思っていました。


「もう、なんなのこの人……。じゃあとにかく、もう腹囲測っちゃうから! プンプン!」


 なんで怒ってるのこの人……。ってか、プンプンて。


 看護師の女性はテキパキと俺の腹回りを巻尺で測ると、受診票にさらさらと記録して俺に押し付けるように渡してきた。


「はい! 次は隣のX線検査! さっさと行きなさいよ!」


「はぁ……」


 なんだかよくわからないが、俺は嫌われたらしい。

 釈然としない気分のまま、カーテンを開けて出ようとする俺に、ふと看護師が気がついたように声をかけてきた。


「宮内さん。あなた――」


「はい?」


「――すでに出家して悟りをひらいているのなら、申告してね」


「ひらいてません」


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