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2:身長・体重測定


 最初の検査は、身長・体重測定だった。


 更衣室に向かった俺は、上着を脱いで上半身を肌着だけにし、クツも受付で渡されたサンダルにはきかえてから、指示された場所に行ってみた。

 そこにいた年配の女性看護師に、受付で新たにもらった検査票を渡す。看護師は事務的な口調で俺に告げた。


「はい、そこの身長計にサンダルを脱いで乗ってください。乗ったら背を伸ばして、あごをひいて背中をぴったり後ろの棒につけてください」


 言われるがまま、俺は背中を身長計にぴったりつける。

 すると、頭上で「スーッ、ズズッ」と、なにやらスライドする音が聞こえてきた。

 学生のときは、身長計についたプレートを人の手で頭に乗せ、目盛りを読むことで身長を記録していた。

 だがこの身長計は、看護師の手元のコントローラーにより、遠隔操作でプレートが動くタイプのようだった。

 俺が立っていると、黒いプレートが自動的に頭の上に乗っかる。

 身長の位置を正確に確かめようとしているのか、若干プレートが上下してから、再び俺の頭に乗った。

 そしてそこから、なぜかプレートはぐいっと俺の頭をむりやり押し下げた。


「んんんっ?」


 俺はふんばるが、プレートはなおもぐいぐい力任せに下がってくる。頭が痛い。


「ち、ちょっ、とっ?」


 思わずひざを折る俺。

 そこで看護師の前にあるコントローラーから「チーン」という金属音が響いた。ほくそ笑む女性。


「宮内さん。身長、132センチね。はい次は体重測定――」


「まてまてまて! おかしいだろ! なんなんだよこの身長計!」


 猛烈に訴える俺に、ベテラン女性看護師は「やれやれ」といわんばかりにため息をついてみせた。


「男子にとって、命の次に大切なもの。それは身長でしょう。高ければモテる。低ければ嫌われる。世の中は無情なものよ」


「いや、達観しすぎでしょそれ。命の次に大切なって」


「プレートごときに負けちゃダメよ。つかみとりなさい、自分の身長を。自分の力で」


「いやいや。だから俺のありのままの身長を測ってくれればいいんじゃないですか」


「『レットイットゴー』とでも言うつもり? 社会はそんなに単純ではないわ。ありのままの自分を正しく評価してくれる理想の職場なんて、そうありはしない。なら、自分の評価は自分でつかみとるしかないのよ。さあ、くやしければもう一度挑戦なさい」


「は、はあ……」


 ただの身長測定なのに、なんで人生を試されることになってるんだろう……。

 俺はもう一度、背筋をしっかりのばし、プレートの落下に耐える体勢を整えた。

 ゆっくりと下りてくるプレート。一度頭に触れ、確かめるように上下してから、さらに落下してくる。

 ここからだ。

 頭を押し下げようとするプレート。それに対し、全力で抵抗する俺。

 さっきは感じなかったが、プレートの力はかなり強い。早くもひざが悲鳴を上げそうになる。

 だが――


「うおおおおおおおおっっ!」


 俺は頭の痛みと下への力をガマンし、ひざを必死に伸ばそうとする。

 プレートの力に抗い、直立する。

 そして三秒ほど、耐える時間が続くと――


 チーン。


 看護師のコントローラーから軽い音が響き、プレートは離れていった。

 俺は全身の力が抜け、身長計を背に思わず座りこんでしまう。


「宮内さん、170センチ。なんとか自分の身長はたもった、というところね」


「は、はあ、どうも……」


「次のステップはつま先立ちで挑戦することね」


 もうそれ、計測じゃないじゃん……。


「はい、次は体重測定よ。ここに乗って」


「あ、はい……」


 俺が身長計の向かいにある体重計――足を乗せるための四角い器械だ――に乗ろうとする。看護師が「くつ下は脱ぎなさい」というので、のろのろと脱いでから乗る。


 じゅっ、と何かが焼ける音がした。


「あっっっちぃぃぃぃぃ!!!!!!!」


 焼けたのは、俺の足だった。

 思わず足を避ける俺。

 温度が――体重計の温度が、尋常じゃないほど高い。熱い。足、焦げた。


「んだよこれ!? なんで体重計がこんなお好み焼きの鉄板並に熱いんだよ!!」


「それ、的確な表現ね。午後の検査から使わせてもらうわ」


「知らねーよ! ってかなんなんだよこの体重計!!」


「あら、宮内さんは今年はじめてだから知らないのね。この検査は、町内に代々伝わる火祭りの練習を兼ねているのよ。燃え盛る炭の上を裸足で渡るっていう祭り。毎年九月十二日に開催しているから、宮内さんもいらしてね」


「俺はこの町内の住民じゃねえっつーの! ただ職場から指示されてここに受診しにきただけだって!」


「でもこれに乗らないと、あなたの職場の職務規定違反になるんじゃないかしら。それにこれまでの方もみなさん、この体重計で計測なさっていたから。あなたにだけできないなんてことはないわ。さあ」


 本当かよ……。

 俺は激しく疑問に思いながらも、もう一度、灼熱の体温計に足を乗せた。


「ぐっ……おおおおおっっ!!!」


 熱い。死ぬほど熱い。苦もんの表情になっているのが自分でもよくわかる。

 焼けるような(実際少しは焼けていたと思う)両足の熱さに耐え、俺はなんとか体重測定を終えた。


「はい。次はとなりへ行って下さいね」


 にこやかに言う年配の女性看護師の言葉に、早くも俺の精神は折れそうだった。

 なんかおかしいだろ、ここの健康診断。


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