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 夢のような30分間という限られた時間の中で戦場を駆け巡り、勝利を手にしたあと。わたしは仕事のため、パトリックと笑顔で別れを告げ、速やかに強制ログアウトをした。

「ふぅ……」

 今回はまだ薬の効果が残っているからなのか? なんだか頭がぼぅ~っとする。

 それはそうと、今日も相変わらずバグらしい『君たちなら』どうたらこうたら、っていう言葉をしゃべるキャラが居たけれど。そろそろそのバグも気にならなくなっていた。それ以上にあの《バトル・オブ・69》の戦場での戦闘は白熱していて、そのようなコトはささいな問題のように思えてしまうほどだった。これは売れること間違いなしだ!

 『君は強い! 君なら、世界を変えられる筈だ』

 戦場で相手からそんなバグネタをかませられて、思わず「そうかなぁ? あ、やっぱり~♪」と勘違いしてしまうことも多々あったりもする。なんだかアレって割りといいバグかもしれない、なんて思ったりもしたくらいだもんなぁ。


()ぅ……!」

 またあの頭痛だ。

 しかも立ち上がり歩こうとすると、目眩(めまい)で倒れ掛かってしまうほどの重症だ。この《バトル・オブ・69》の欠点があるとしたら、きっとコレだろう……。精神トリップし、異世界で疑似体験出来るのは正直いって凄いことだとは思うけど。でも、あとあと問題視されそうだよ、コレは。

 やはり一度、レビュー報告はやっておくべきよねぇ?

 わたしはそう思い、仕事へと戻る。この日は夜も、参戦する約束をパトリックとしていた。さっさと仕事を片付けて、今日は早く帰ろ~っと♪

 そうは思ったところで、そこはやはり仕事。業務の一環として、キチンとしたレビュー報告をしようと色々なサイトを巡り、報告用の文章をまとめていると色々と気になる点が目に飛び込んで来た。それは、あの例のバグと事件の因果関係。

 今日も昨日同様に、高校生や大学生が事件を起こしていたそうだ。そして、それらの事件に共通していたのがナント、皆、《バトル・オブ・69》をプレイしていた、という新事実だった。

 さすがに気になりだし、上司から睨まれながらもわたしはそのコトについてクライアントであるグリーン・モバイル社からも情報をもらい顧客情報を詳しく調べてゆきある事実に辿り着く。

 それは、《バトル・オブ・69》のプレイ時間との因果関係だった。

 事件を起こした人の平均プレイ時間は、150時間だった。ベーターテストが始まってそんなに日が経ってもいなかったが、それだけのプレイ時間を越える人が結構すでに居たのだ。これには流石に驚かされた。いつ寝てるんだ、この人たちは……そう思えてならない。

 そして、150時間を越えたプレイヤーの中に昨日から連続して起こしていた事件の当事者が居た、というコトだ。


 偶然……にしては、出来過ぎていると思う。

 いや! これはきっと、偶然なんかじゃない……なにかある筈よ!


 わたしはそのコトを文章化し、報告書をエクセルとパワーポイントを使い駆使して作成した。気がつけば……もう20時だった。報告書を渡す上司もすでに接待があるとかで会社を出たあとだった。

 わたしは仕方なく、出来上がった報告書を上司へ極秘扱いでメールにて送信し、会社を出る。


◇◇◇


 21時には《バトル・オブ・69》でまた会おう! というパトリックとの約束があったから、わたしは帰宅を急いでいた。それに何よりも……今回掴んだこの件を、パトリックにも教えてあげなければならない。そうした使命感のようなモノが自然とわたしの思いと体を突き動かし()かせていた。

(つう)ッ……?!」

 またあの頭痛だ。日増しにひどくなっている気がする。

「あぁ……この件についてもレビューで上げとかないといけなかったのに、ついつい忘れてたなぁ……わたし」

 わたしはそう思い、ふと前を見る。

「───え? なに?? どういうコトなの、コレは!?」

 不思議なことに……わたしの目の前には、《バトル・オブ・69》戦場:森林の舞台が広がっていたのだ。

「え? なによコレ……どうして??」

 薬もまだ飲んでいない。ログインすらしていない。なのに……そこには《バトル・オブ・69》の世界が広がっていたのだ。


 これは一体、どういうこと??


 そう思うわたしの目の前で、1人の若い女性が短銃を構えていた!?

 わたしは咄嗟にそれを交わし、その相手を掴み倒す!! ───と?

 そんなわたしを突如、悲鳴と同時に複数人の人々が取り押さえてきたのだ。

「クソッ! また1人出たぞ!!」

「まったく、どうなってんだ近頃は!」

 その取り押さえてきた1人がそう叫んでいた。見るとその人は、あの《バトル・オブ・69》に出て来るような人ではなく、普通の姿のサラリーマンだった。

 わたしはそれでハッとし、掴み抑えていた相手を改めて見つめ直す。そこには女子中学生が携帯を片手にガタガタとわたしを見て身を震わせていた……。


 まさか……このわたしが!? ――うそっ!!


 わたしは多数の人たちから囲まれたまま、今、自分自身に起きている現実に信じられない気持ち一杯で思わず顔を覆った──。


  ◇ ◇ ◇


 そして同時刻、グリーン・モバイル社のとある開発室にて、複数のPCを操作しプログラミングしている同僚の机へコーヒーを置き、こう語りかける男が居た。

「おい、聞いたか?」

「なにをだ……」

 男はブラインドタッチでPC入力を続け、それが止まることはなかった。

「今日、うちの顧客情報を聞いてきた奴が居たらしい。それで早速、そこの会社のサーバーへハッキングしてみたら、こんなモンが出てきたよ。

我々クライアント側の許しもなく、あんなにもヌルいセキュリティーでこんな内容のメールを送るなんて、とんだ広告代理店もあったモンだ」

 それはレイコが上司への報告用として作成した資料だった。

 それをブラインドタッチし続ける男は軽く見つめ、吐息をつく。

「予想よりも、かなり早いな。もう嗅ぎ付けられたのか?」

「ああ、だが……そう心配することもない。ちゃんと片付けといたよ」

「……」

 その瞬間だけ、男の手はピタリと止まる。

 そんな彼を見つめ、男は苦笑した。

「なぁ~に、心配するコトはなにもないさ。手荒なことはしていないよ。これから社会的制裁は加えられるだろうがねぇ……」

「社会的、制裁……?」

「ああ、まあこの世の中なんてそうしたモンだろう? なあ、パトリック」

 そう愉快気にクックッと含み笑い言う男の言葉など無視したかのように、パトリックは再びブラインドタッチでPC入力を開始し、何か悔まれる様子で口を開く。

「わたしは……私はただ……今の世の中に疑問を持ち、人、ひとり一人の意思で改革をと思い。このプロジェクトへ賛同したに過ぎない」

「ああ、わかってる。わかっているよ。君はいつだって正しいさ。だからなにも心配するコトはない」

 そこでピタリと再び手を止め、横目に男を見つめた。

「……本当に、そう思っているのか? 君は」

「……」

 何も言い返すこともなくただただ苦い顔を見せるだけの相手を見つめ、パトリックは間もなく吐息をつき時計を見る。時間はもう間もなく21時だった。

「すまないが、もう直ぐ時間なんだ。大事な人との外せない約束があってね」

「そうか……わかったよ。じゃあ今夜はこれで失礼させてもらうことにするよ。ではまた、明日な! パトリック」

「ああ……」

 パトリックは男を見送り、そしていつもの画面を開いた。



  ようこそ愚民共よ! 《バトル・オブ・69》の世界へ───!



「私にも……本当になにが正しいかなんてわかりはしないさ。

レイ……君ならこれに、どう答えてくれるのだろうか?」

 パトリックはそう零し、戦場へと向かうのだった。






 リレー小説3話目 これにて完結です。ありがとうございましたー!

 次の話に乞うご期待!! 頼みますよー! 次の話担当の方~♪



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