俺の初恋、君に捧げよう?
−−本日、晴天。
道を縁取る満開の桜が、風に煽られ、あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら。
きっとこれは、受験を誰よりも必死にがんばった俺を迎える、神からの演出に違いない。
……うん、きっとそうだ。
今、俺は電車を降り、駅から出たところ。
念願の工業高校に受かり、それで今日はめでたい入学式ってわけだ。
今朝、1時間3分かけてセットした髪型をいじりながら、俺は桜吹雪が舞う道を歩きだした。
実は俺、こうみえても恋愛には縁がない、というよりは、今まで俺好みの女があらわれなかった。そういうわけだ。
高校になったら、彼女いない暦=年齢を卒業できることを期待していたのは、昨日まで。
俺はケツのポケットからケータイをとりだし、昨日届いたメールを確認した。
《工業高校入学おめでとう!いよいよ、お前、プログラマーの夢へ近づいたな!しかも、彼女もつくりたいんだって?…水を差すようで悪いが、工業はクラスに2人くらいしか女いないからな!ま、せいぜいがんばれや!(笑)》
ちきしょー!何が(笑)だこのヤロー!
俺の予定していた甘い青春がぁぁぁ!
クラスに2人って、そっから俺好みを探せと?
全校漁っても確率低いよ!
はぁ、と桜吹雪にはにあわない悲しいため息をついた。
やっぱ、彼女くらいほしいわ。
俺がケツのポケットに、ケータイをしまおうと後ろをむいた。
1回でうまく入らず、3回でようやくいれ、ふと顔をあげた。
俺の足が、とまった。
約10メートル先、工業高校の制服に、今にもパンツが見えそうなくらいの……スカート。
腰まで長い髪は、桜吹雪とともに舞っている。天使のわが美しい。
そのこが、だんだん俺な近づいてきた。
雪のように真っ白な、病弱そうな肌とは裏腹に、林檎なほっぺと、サクランボのような唇。
ぼっ! と、俺の頬が火を噴いた。
なんだ、いるじゃないか!間近に美しい天使が!
胸裏をたたく心臓を押さえ、彼女を目でおった。
伏せ目でひとりで歩く彼女。
俺のすぐ横をとおりすぎると、花の香がした。
うん、すばらしい。
こうしちゃいられない!
先手必勝!
俺は恥を捨てて、彼女に話し掛けた。
「ねぇ、君も工業高校の生徒でしょ。学校まで一緒にいかない?俺、相良亮佑っていうの!」
俺は自分の鼻を指差しながら、彼女の反応をまった。
彼女はゆっくりと振り向き、まさに天使の笑顔で、
「僕と一緒にいってくれるの!?わぁ、うれしいなぁ!僕は、坂城総悟!よろしくね!」
うん、目が点になるってこういうこと。
俺が予想していた、高くて軽やかな女性の声ではなく、重くて、地に響くような低い声。しかも、名前が総悟って……
「あ、あれ?総悟、ちゃん?」
そういうと、総悟ちゃんは子供のように、頬を膨らまして、
「違うよ!なんで会う人全員、僕のこと女と間違えるのかなぁ!僕、そんなに胸でかい?」
そういうと総悟ちゃ……総悟はブレザーを下にひっぱった。
うん、ぺったんこ。
じゃなくて!!
「胸じゃねぇよ!なんで女の制服なんだよ、スカート!ロングへアー!」
「ちゃんと理由があるんだよぉ!あのね、恥ずかしい話、僕んちかなり、かなーり貧乏なんだ。だから、制服なんて高くてかえないの!だから、お姉ちゃんと一緒の高校はいって、僕の制服代を浮かせたんだ。お姉ちゃん、かなりギャルだから、こんなにスカート短くして……」
そういうと総悟は、恥ずかしそうにその短スカートの裾をひっぱった。
可愛い女子がやったら、非常に萌えるのだろうが、こいつがまじで男だとしると、なぁ……
というか、男子がスカートなんて、学校が認めるだろうか。
そんな俺の心配をよそに、総悟は続けた。
「髪の毛も切れないんだ、なんせお金かいからね!あ、相良君が僕の友達第一号だよ!これから末長くよろしくね!」
なんか、その言葉には深い意味か隠されているような気がする。
友達第一号、かぁ。
俺の隣には総悟か楽しそうに話ながら歩いている。
まわりからみれば、可愛い彼女、羨ましい!かも知れないが、まずは俺の初恋をかえしてほしい。
そして、こいつが傍にいると絶対女がよってこない気がする。
相良亮佑15歳。
大変な高校生活になりそうです。