執着
永遠の命を持つ神様と人間の関わりの中に人生を描けたらと思います
ある日の事、神様は以前家族で過ごした 高千穂の峰に降り立った。取り立てて何か目的があった訳ではない。多少 人間の手が入った気配はあるが 変わらないその風景を眺めながら、その昔、この地で過ごした思い出に浸たっていた。
しばらくすると西の空が赤く染まり太陽が沈みかけた。その時である 近づく人間の気配を感じた。神様は自分の気配を消し、その人間を観察した。年齢は40くらい、男である。肩には真新しいロープと小さなバックが掛けられていた。男は辺りを見回し一番枝振りのいい木を見つけると 肩に掛けていたロープをその木に掛けた。どうやら首を吊るつもりらしい。そして、バッグから酒らしき者を取り出し、その枝振りのいい木の下に座り込んだ。そして、その酒を一気に飲み干し、煙草に火を付け、赤く染まった西の空を見つめた。これまでの人生を振り返ってでもいるのか感慨深げな表情をしている。神様はちょっと興味をそそられ 男の頭の中を覗いてみた。どうという事の無い平凡な記憶の連続である。神様は哀れんで、慈悲を与えようと思った。男が見ている西の空にあらんかぎりの人間界の神や仏の像を雲で描いて見せた。赤く染まった西の空の雲の中にキリスト 釈迦 弁天 阿弥陀 、、、一面にくっきりと浮かびあがらせたのだ。その壮観な景色に男は感動したのか、ひざまずき 両手を合わせ祈り始めた。神様は安心しその男の安らかな最期を確信した。ところがである。男は目を輝やかせ神様が創った雲の幻想に向かって再起を誓い始めてしまった。神様は呆気にとられ、しばらく男を見ていたが小さな溜め息と ともに雲の幻想を掻き消しそのばを去った。