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美人症候群

作者:川合 湊人
 研修医を終えて形成外科医として横浜で働き始めた顕也は、勤務先の病院で口唇裂の手術を受けた幼い彩乃の不思議な力に導かれるように、その母親であるシングルマザーの美希に惹かれていく。美希はとびきりの美人だった。ほとんど手術を執刀できない駆け出しの形成外科医との不釣り合いを自覚する顕也は、ぎこちなく精一杯美希を愛する。やがて三人で暮らすようになり婚約を交わすが、儚くも突然の別れが待ち受けていた。
 失意のまま銀座の美容外科に就職した顕也は、夜の街を彷徨う中で思いがけずルッキズムと遺伝に関する研究テーマに出合う。それは忘れたいはずの美希と彩乃に合致する研究であった。スタッフにも恵まれて立派に研究もこなす一流美容外科医への階段を駆け上がる顕也。そこに、被験者の一人として現れる沙菜。壮絶な過去を背負い、ぎりぎり今を生き延びる彼女の姿に、顕也の人生は大きく舵を切った。
 どう死ぬかは問題にしない。どう生きるかがすべて。人の見た目、ルッキズムを扱う形成外科とはそんな診療科である。見た目とは何か、見た目を左右する遺伝とは何か、遺伝に縛られる家族とは何なのか? もがき悩みぶつかり苦しみながら、決して真正面からとは言えなくても、ルッキズムの問題に挑み続けた形成外科医がたどり着いた一つの答えは、いつの時代にもどこにでもあり続けたはずの日常と、幼い彩乃が残した一枚の絵の中にあった。
日常編(一)
2025/11/30 16:19
(二)
2025/12/01 17:00
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