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最推しの愛が重すぎるんですが!?(※裏でリセマラ中)  作者: 勿夏七


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8レポート

「……閉まってる」


 図書室の二階に上がったところ、イオが本を読んでいた場所は柵がされていた。

 イオが魔法で消していただけなのだろうか。

 なんとか開けられないか、柵を掴んでみたが、びくともしなかった。


「ん? そこに誰かいる?」


 イオの声が背後から聞こえてきて、私はメガネをとった。


「こ、こんにちは」


 恐る恐る話しかけると、イオは白い歯を見せて笑う。


「おう。あんたもサボりか? しかも俺と同じ目的とはな〜」


 「ここの管理してる先生、出張で数日不在だもんな」と言いながら、魔法で扉をあっさりと開けてしまう。


「あの時聞きそびれてたんだけど、ハヅキちゃんってやっぱり転入生?」

「……そうです」

「じゃあ、いきなりサボってるわけか!」


 「シンパシー感じるな〜」と笑いつつ、イオはお目当ての本を数冊脇に抱えていく。

 

「……実は道に迷って、もう諦めて隠れて本でも読もうかなと」

「なるほど。ま、うちは勉強さえできれば出席率はあんまり重視してない。ゆっくりしていっても大丈夫だぜ」


 私の適当な言い訳をイオは信じたようで、同情するように私の肩を軽く叩いた。

 

 ――そのあとは大きな本を広げたイオの隣で、本を探す。

 『死に戻り』や『異世界転移』などをキーワードに、私は本のタイトルを1つずつ確認していった。


「これ……も違う」


 本を手に取って中身を確認。肩を落として本を戻し、次の本へ。

 これほどまで見つからないとなると、もどかしさが募ると同時に、絶対に見つけたいと言う好奇心が湧いて出た。

 そんなことを繰り返していると、イオがさすがに気になったのか、こちらを見て杖を取り出した。


「手伝おうか?」

「それは、申し訳ないです」

「いいっていいって。どんな本を探してるんだ?」


 杖を構え、いつでも唱えられるように準備万端なイオ。

 これ以上隣で騒がしくしているのもな……。躊躇いつつもイオに単語を伝えるとイオはキョトンとした顔で問いかけてきた。

 

「小説でも探してるのか?」

「いえ、違います。方法とか、そういうのが載っている本があればと思って」

「なるほど!」


 イオは納得したように頷き、「俺に任せろ」と杖を振り私の前に本を集めてくれた。

 そこには、参考書の他に卒業生の書いたレポートまで並んでいる。


「転入生なのに、もうこんな奥深いことに興味持ってんだな。俺なんて、日常で使える魔法ばっか求めてたぜ」


 後ろ頭をかきながら、イオは屈託なく笑っていた。意外とみんな、そういうのに興味があったようでよかった。変なものを調べる女だと思われたら、きっと調査も大変だっただろう。


「いらないものや読み終わったのは、ここに置いたらいいぞ。勝手に定位置に戻ってくれるからな」


 イオが指差した場所は、"返却場"と書かれた棚だった。そこに本を置くと、一定時間後元あった場所に戻るのだという。……便利だ。

 

 早速不要そうなものをすべてその棚へと置いて、中身を確認する。

 まずレポートから見よう。そう思い手に取ったのは、レンの名前が書いてある『異世界との繋ぎ方』というレポートだった。

 日付は割と新しい。私がこの世界に来る数日前のようだ。

 

 レンは他にも『死に戻りは実在するのか』『記憶の保ち方』というものも書いていた。

 それはまるで私のために用意されたかのようなレポートだ。


 まず、死に戻りに関するレポートを開くと、最初の方に『時折、無関係の人間が巻き込まれ、記憶が混濁する恐れあり。注意が必要』と記載があった。

 また、記憶の保ち方については、よくわからない単語が頻繁に使われていた。そのため、調べながらでないと上手く読めそうもなくて、まるで暗号解読をしている気分だった。


 ……もしかすると、死に戻った際にレンがすべて書き留めたものなのかもしれない。


「これって借りて帰れますか?」

「レポートは転写すればいい。そこに山羊がいるだろ?」

「え? ……ああ、はい。いますね」


 メエとも鳴かない真っ白な山羊。与えられた場所に静かに佇んでおり、窓の外をじっと眺めている。

 時折窓から顔を出し、辺りをキョロキョロと見渡している。


「あいつに頼めばいいぞ」

「レポート、食べられちゃいそうなんですけど……」

「食わせて増やすんだ。ほら、騙されたと思ってやってみろよ」


 背中を押され、山羊の前に立つ。お尻を向けていた山羊は背後に人がいるのを察知したのか、振り返り私の持っているレポートを見つめた。


「……レンには内緒か?」

「わあっ、しゃべった!」


 レンってこのレポート書いたレンのことだよね?

 印刷するには、レポート作成者の許可が必要ってこと?


「山羊? いつもは喋らないくせに、どうしたんだ?」

「気になったからだ。我が喋らないのは喋る必要がないというだけ。……お前はもう自身の本でも読んでいろ」

「お、おう? ハヅキちゃん、何かあれば遠慮なく呼んでくれよな」

「はい。ありがとうございます」


 疑問符を浮かべながら、イオはそそくさと元の場所へと戻る。

 それを見届けた山羊は私を見つめた。


「レポートって、作者の許可が必要なんですか?」

「いいや、レポートは作者の許可なしに転写できる……それで、レンには内緒なのか?」


 なぜそう聞いてくるのかは謎だが、知られたくないのは事実だ。

 

「はい。あの人には内緒です」


 きっとレンは心配する。私が一人で行動すること自体もあまり好ましく思っていなさそうだったし。

 

「そうであろうな。心配せずとも話さぬ。必要なら手を貸そう」


 何かを察した山羊は小さく頷き、口からハラハラと数枚紙を吐き出して言った。

 その時、「ゲッ、ゲッ」と喉を詰まらせたような声を出したが、山羊は顔をぷるぷると振り、何事もなかったように私を見た。


「我はたくさんの書物を食してきた。お前の役に立つだろう」


 散らばった紙を拾うと、それは『元の世界に帰る方法』『ループからの抜け出し』など作者不明のレポートだった。

 これらはどれもこの世界の文字とは違う――日本の文字で書かれていた。


「過去に私と同じ境遇の人が?」

「ああ。それらはすべて、人間のエゴで異世界へと飛ばされた哀れな同胞たちだ」


 山羊は別世界にも存在しているらしく、別の世界のレポートや書物も持っているそうだ。

 元の世界に帰してくれと頼んでも、無理だできないの一点張り。嫌気がさした人々が秘密裏に書き、山羊に記憶しておくように頼んだのだとか。


「これって結構深刻そうですね……?」


 誰が、なんのために私をここに呼んだのか。それがわからない以上、レンに言われた通り、部屋から出ない方がいいのかもしれない。

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