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最推しの愛が重すぎるんですが!?(※裏でリセマラ中)  作者: 勿夏七


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4/14

4図書室の隅で

 朝、九月二十五日

 学校のチャイムの音で起きた。皆このくらいの時間に起きるように言われてるんだろうなぁ。

 時間は七時。早すぎず、遅すぎず、ちょうどいい時間だ。

 

 私は早速レンにもらったネックレスをつけて、用意してもらった新品な制服に着替えた。

 パジャマまで用意させてしまい、ちょっと申し訳ない。


 身支度を済ませてリビングへと行くと、すでに朝食が準備されていた。

 表面が黄金色に輝くパンや甘い香りのするコーンスープ――他にもたくさんの料理が並んでいた。


「ごめんね。作りすぎただけだから、食べ切れる量食べてね」

「……えっ、待ってください? もしかしてこれ全部レンさんの手作り!?」


 朝から推しからの供給がえらいことに。さっきまで眠かったのに、完璧に目が覚めた。

 軽い足取りで椅子に手を掛けようとしたら、「どうぞ」とわざわざレンが椅子を引いてくれた。


 推しの手料理、推しが引いてくれた椅子……過剰なまでの優しさに、思わず身構えてしまう。

 このままでは、私の心臓が爆発してしまうのではないだろうか。


「ありがとうございます」


 できるだけ興奮を抑えてお礼を言う。レンは相変わらず笑顔。これだけ良くしてもらっていると、私に好意があるのではないかと錯覚してしまう。さすがモテる男だ。

 だが、それゆえ優しい止まりになりがちな私の推し。

 友達にゲームを布教しても、どうしてもイオか他メインヒーローを好きになってしまうのだ。

 レンの攻略を終わらせる前に、脱落してしまうのだ。


 いかん、いかん。今はそんなことどうでもいい。推しと食事ができるんだから、今は目の前の料理に集中しよう。


「いただきます!」

「召し上がれ。口に合うといいんだけど」


 心配そうに眉を下げたレン。推しの作った食べ物が口に合わないわけがない。そう思いつつ、一口。


「美味しい! というか、すごく私好みの味付けです!」

「よかった。君好みになるよう頑張ったんだ」

 

 まるで私のお母さんが作ってくれたかのような味付けだ。用意してくれたもの全部食べてしまいたいレベルには好きだ。

 どうしてここまで味付けが似ているんだろう? もしかして、ゲームの世界が私に合わせてくれている……とか?

 ちょっと怖くなったが、料理には罪はない。

 私は食べ切れるだけ食べて、レンにお礼を言ったのだった。


 ◇


 レンは学校で授業。そして私はこれから見回りだ。

 先生たちは、レンから話を通してくれているらしい。なので、私はただサボりを見つけたらボタンを押すだけの簡単なお仕事だ。


 メガネをかけて、校内へと入る。

 レンからもらったお手製の地図を頼りに、ぐるりと探索。先生の説明する声や、生徒の笑い声が、静かな廊下によく響いていた。


 図書室に到着。階段を上がって端の方、あまり人が来ていないのか埃が溜まっているそんな場所。

 そこにはイオが、かなり分厚くて大きな本を開いて座っていた。

 

「あ、サボり発見」

「げっ、見つかった――あれ、誰もいないな。声からしてハヅキちゃん?」


 目の前に立っているのに、イオと視線が合わない。

 イオは遠くを眺めたり、ぐるりと体を使って辺りを見渡したり。

 

「私、目の前にいるんだけど……」


 イオの目の前で手をひらひらとさせてみたが、それでもイオは気づかない。

 思い切って手を触ってみると、イオは私の手を握る。

 その途端、イオは何か閃いたようで「あっ!」と声をあげた。

 そして傍に置いてあった小さな本を開き、指で文字をなぞった後に私へと言う。

 

「多分、幻惑魔法がかかってるんだと思う。レンから何か身につけてろって言われた?」

「えっと、メガネとネックレス」

「じゃあ、メガネ取ってみてくれないか?」


 言われた通りメガネを取ると、やっとイオと視線が合った。

 イオは私を見て笑顔で言った。


「会えて嬉しいよ、ハヅキちゃん。ところで何をやってるんだ?」

「私は仕事です。サボりを見つける仕事」

「……マジ?」

 

 衝撃の事実に、イオは顔を歪ませた。

 ――そういえば、乙女ゲームでも最初にイオをここで見つけるんだよね。

 ヒロインはサボりじゃなくて、迷っただけだけど。

 

「マジです。このスイッチを押せば、先生が来て――」

「待って待って。お願いだから見逃してくれっ!」

 

 スイッチを見せびらかしながらそう言えば、イオは勢いよく立ち上がった。

 慌てる姿も可愛いね! て違う違う。

 スイッチを奪おうとしたイオを避けて、私はスイッチを後ろへと隠した。イオはそれでも狙ってくる。


「……ここ、普通は入れない場所なんだよ。だから、誰にも見つからないと思ってたんだ」


 このセリフ、聞いた覚えがある。最初に出会う時もそう言って、ヒロインに土下座してまで頼み込んでいたっけ。どういう本だったかは忘れてしまったけれど、確かキーアイテムだったはずだ。

 そういえばヒロインは先生に言わない代わり、教室を教えて欲しいって頼んだんだよね。懐かしいなぁ。最初に攻略したメインヒーロー……


 「おーい、聞いてる?」とイオが目の前で手を振る。

 私はハッとする。私はすぐに頷き、イオのセリフを思い出しながら頷いた。


「はい! ここの先生が出張でチャンスは今日しかないって話ですよね」

「そうそう。だから、お願い! 先生は呼ばないで」


 必死の形相に、私は思わず笑みがこぼれた。しょうがない。イオが可愛いから。


「わかりました。でも、今回だけですよ?」


 あえてヒロインと同じセリフを言ってみる。ちょっと変な感じ。

 その瞬間、イオはぱあっと顔を明るくして、スイッチを持っていない手を握る。

 握られた手がじんわり熱い。

 ちょっと照れちゃうな……


「ありがとう! 今度飯でも奢らせてくれな!」


 そう言った後、すぐにまた本の方へと戻っていってしまった。まあ、イオにとってはかなり重要な本だったはずだし当たり前か。確かゲームでも出会いはあっさりだった。


「先生に見つからないようにしてくださいねー」

「おー! 今更だけど、メガネ可愛いよ!」

「ええっ!?」


 階段を降りる最中に言われたせいで、私は動揺して足を滑らせてしまった。

 その拍子に、レンからもらったネックレスが光った気がした。

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