表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最推しの愛が重すぎるんですが!?(※裏でリセマラ中)  作者: 勿夏七


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/14

2彼の隣で

 森を抜けて大きな学校へと足を踏み入れた。その瞬間、まるでスポットライトを浴びたかのように、周囲の視線が一斉に私へと突き刺さった。

 きっと私が人気者のレンと一緒にいるから、みんな気になるのだろう。

 挨拶でもしようかと振り向こうとした。しかし、挨拶しようと振り向くより先に、レンが私の手を強く握りしめた。

 

 レンは学長室の前までたどり着いたところで手を離し、私へと振り返る。


「今から話してくるからね。君はここで待ってて」

「私、挨拶しなくていいんですか?」

「そこまでしなくていいよ。君みたいな可愛い子を連れてきたとなれば、面白がって茶化されそうだからね」

「か、かわっ!?」


 動揺のあまり、言葉が出なかった。まさか推しに『可愛い』と言われるなんて思わなかった。

 動揺している私をよそに、「じゃあ、行ってくるね」そう言ってレンはノックもせず学長室へと入っていった。

 

 どのくらい待つのだろう、そう思いながら廊下の椅子に腰掛けた。

 時計は授業の始まるちょっと前。日付は九月二十四日。

 

 外で何かしているのか、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。私も魔法が使えたら、皆とこの学校に通って、魔法使いにでもなれたのだろうか。

 

 ゲームのように手をかざして、「いでよ、水!」と言ってみた。

 だが、水が出る様子はない。

 やっぱり、元の世界の体がそのままこちらに飛ばされただけなんだろうな……。


「あれ? 学長室の前に女の子がいる」

「え、あっ、こんにちは……」


 突然現れた人に、私は挙動不審。これだから陰キャは……と心の中で自分に突っ込みながら、椅子から立ち上がる。


「蓮月って言います」


 頭を下げ、私は自己紹介をする。

 男子生徒はレンと一緒でどこか見覚えのある見た目。

 赤色の髪に、少しつり上がった緑色の瞳。快活な笑顔がよく似合う。

 まるで彼は、ゲームのメインヒーローであるイオのようだ。

 

「こんにちは、ハヅキちゃん。俺はイオって言うんだ。よろしく」


 やっぱり当たってた!

 レンと違ってちょっと可愛い系の見た目に声。性格も文句なしに良くて、メインヒーローに相応しい人だ。


「もしかして、ハヅキちゃんは転校生?」

「あー、えっと……」

「イオには秘密」

 

 なんて説明したものかと悩んでいると、すぐにレンが間に入ってくれた。


「え〜! なんでだよ、いいだろ聞いたって」

「イオはすぐに言いふらすからダメ。隠し事してたら顔でバレちゃうし」


 「ほら、行こう」イオを遠ざけるようにレンは私の手首を掴んで歩き出す。


「今度もっと話そうぜ! あんたとなら、楽しい話ができそうだ!」


 軽やかな声に、メインヒーローらしさを感じた。

 この世界にいるのは当たり前だが、まさかこんなにも早くイオに会えるなんて思いもしなかったな。

 そんなことを思っていると、レンは小声で言う。


「イオは誰にでも親切だけど、口が軽くてね。君のことは、僕だけの秘密にしておきたいから」


 指を唇に添え、レンはクスッと笑った。

 そういう反則技使わないでもらえませんかね!?

 言いたい気持ちを抑え込んで、私は収まらないにやけに口元を押さえた。


「……不意打ちやめてくれませんか」

「ふふ、君次第かな」


 楽しそに笑う姿に、鼓動が早まる。このままだと早死にするかもしれない。

 

 ◇

 

 レンが学長の息子ということもあり、すぐに私用の部屋を用意してもらってしまった。

 ありがたいことではあるのだが、なんと部屋はレンの隣だと。

 ゲームプレイ中には気づかなかったが、レン別棟でいつも過ごしているらしい。


 これって、エンディング後誰にも気づかれず、イチャイチャし放題だったてことじゃない!?

 夢のような二人きり……スチル、見たかったなぁ!

 

 大興奮で頭の中には、次々と喜びの言葉が浮かんできていた。

 だが、表向きは無言だったこともあり、レンは申し訳なさそうに謝罪をした。


「ごめんね。女子寮に空きがなかったみたい」

「全然大丈夫です! 一人部屋を用意してくれただけでも、かなりありがたいです!」

「それならよかった。ここには君の知り合いはいないし、事情を知っている僕の近くの方が、君も安心だろう?」


 レンはこんなにも親切――だけど、恋を知ると病んでしまう。その姿が私の心を掴んで離さなかった。

 でもまあ、多分私がその好意を向けられることはないだろう。なんせレンのタイプと真逆だし!

 そんなことを思いながらも表向きは微笑むだけに留める。

 

「レンさんに見つけてもらえてよかったです」

「あはは。……僕を疑わなくて大丈夫?」


 一瞬だけ真顔になったレン。少しだけ冷たさを感じたその言葉に、私は首を傾げた。

 騙されやすそうだから心配してくれているのだろうか。

 

「なんでですか?」

「あまりにも素直だから。この世界に連れてこられた理由とか、普通は第一発見者の僕が疑われそうだなと思ってたし」


 「君に疑われる覚悟、してたんだよ?」と冗談めいた言い方でレンは言った。

 

「……なるほど。確かに言われてみればそういうことも考えられますね」


 といっても、レンの好きなタイプとは全然違う私を、この世界に連れてくる動機なんて、レンにはないはずだ。

 となれば何らかのアクシデントに決まっている。


「でも、レンさんはそんなことしないですよね?」

「初対面なのに、かなり信頼されてるね」


「勘です!」と私は胸を張って言った。

 すると、レンは肩を揺らして笑った。けれど、金色の瞳は一瞬も私から逸らさなかった。

 

 

 「ここだよ」そう言って連れてきてもらったのは、私の部屋になる場所。

 扉を開けると、埃1つない綺麗な部屋だった。白を基調としており、柔らかい照明。そのおかげか温かみがありリラックスして過ごせそうだ。


「自由に過ごしてもらって構わないよ」

 

 何もせず自由。それはかなり嬉しいことだ。だが、何もしないとなると、それはそれで落ち着かない。どうせなら学校に通わせてもらって皆と勉強を――とも思ったが、習ったからと魔法が私に扱えるのか、そもそも魔力があるのかもわからない。


「清掃員として働かせてもらえませんか?」

「魔法ですぐ片づいちゃうから、清掃員はいらないかな……」

「そっか。……何かできることないですかね?」

「そんなに何かしたい?」


 そう言われると、違いますと言いたくなってしまうな。遊び呆けてはいたいので。

 実際は不安だから、何かしら仕事を与えられていた方が楽だという話になる。

 でも、そんな打算的な行動は、レンはあまり好きじゃないだろうな……。

 それでも私は笑顔で頷く。


「はい! レンさんの役に立ちたいです!」


 そう言えば、レンは頷いた後、顎に手を添えて考え始めた。

 

「じゃあ、こうしようか」


 レンは閃いたようで、笑顔で私を見た。


「1日1回、僕とハグする」

「ええ!?」

 

 一瞬、耳を疑った。レンは微笑んだまま、私をじっと見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ