終
イオの乱入ですっかり冷めてしまった朝食。そして、遅刻確定の時間。
イオは気にする様子もなく一枚の紙を取り出した。
「今日は体調不良ってことで、休むことにするよ」
杖を振って欠席届を飛ばすレン。そのあと料理を魔法で温め直す。ほんと、魔法って便利。
「さて、食べながら話をしようか」
さっきまであんなに乱れていたのが嘘みたいだ。
病んでいるように見せかけていただけなんてことは……さすがに、ないよね。
「どうして私を好きになったんですか?」
「君は自分を卑下しすぎだよ。主人公と比べても仕方ない」
「でも、ゲームでは『サラサラの君の髪が好きだ』って……」
レンは手を伸ばし、私の天然パーマをそっと撫でる。
「好きな人の髪だからさ。君の髪はふわふわして、ずっと触りたいと思ってた」
「て、照れるのでやめてもらって……! というか理由は?」
「簡単だよ。一生懸命に僕を攻略してくれた君に惚れたんだ」
その言葉に、思わず顔が熱くなる。
「ぜ、全部見られてたの恥ずかしすぎる……!」
「面白かったよ。ただ……君を引き摺り込むまでは嫉妬で狂いそうだったけどね」
レンは笑っていたけれど、その奥に滲む執着を感じる。
どうやら、レンの攻略を終わるまで手も足も出なかったらしい。一度私が元の世界に戻ってやり直しになった時は、かなり荒れていたとか。
「その様子、私が見たかった」
「そんなこと言うの、君くらいだよ……」
苦笑いを浮かべたレンだったが、私の顔を見て口元を指さした。
「ハヅキ、口にケチャップついてる」
レンが身を乗り出し、次の瞬間、口元に生暖かい感触が走った。
「ぎゃっ!」
思わず椅子を蹴って飛び退く。
「れ、レンさん! 今、舐めましたよね!?」
「ふふ。嫌だった?」
「……い、嫌じゃないですけど!」
「嫌じゃなかったらいいでしょう? ほら、続き」
「つ、続き!?」
なんの続きですか!?
動揺する私を見て、からかうような笑みを浮かべるレン。
心臓が壊れそうだ。
「何を想像したのやら。ただ“ちゃんと食べて”ってことだよ」
指さす先には、まだ残った料理。私が頬を膨らませると、レンは嬉しそうに目を細めた。
「――これからは、ずっと一緒だよ。ハヅキ」
「もちろんです。レンさんが嫌がっても離れてあげませんからね」