09. お説教part2
その夜、客に付き合って少し飲み過ぎてしまったマリーンは早々にベッドに入っていたが、ウトウトしだした頃に背中から伸びてくる手を感じて微笑んだ
「ジェイ、ごめん、今日は眠いの」
もごもごと言い訳をしたが伸びてきた手は胸から腰へ、太腿へと降りていく
「ああん、だめだってば」
いつになく優しい愛撫にマリーンは甘えた声を出したが、そこで気がついた
「ちょっと!」
ガバッと起き上がってシーツをめくった
「ジェ―――――――――――イ!」
ゴキブリが出たときより遥かにでかい特大の叫び声を聞いて、ジェイが寝室に飛び込んできた
「どうした、マリーン!」
マリーンは真っ赤な顔でベッド脇に立っていた
その手には腕をねじ上げられたウィンがじたばたしている
「ジェイ!
あんた、何を話したの?」
「いや、俺は」
「とにかくこの子を連れてって、お説教のやり直し!」
「わかった、わかったよ、ウィンこっち来い」
「二人とも今日はこの部屋に立ち入り禁止!」
二人は寝室から追い出され、ジェイはウィンをリビングに引っ張って行った
「ウィン、何してんだよ」
ソファに座るとジェイは頭を抱えて訊いた
「だって、セックスは本当に好きな人とするもんだって、ジェイが言ったから」
(俺、そんなこと言ったっけ?)
「うーん、それはそうだが、相手の気持ちってのを考えなくちゃ」
「マリーンは僕が嫌いなの?」
「そうじゃなくて、マリーンにとっておまえは弟とか息子とか、そういう感じの "好き" で男としては見てないってこと」
ウィンは不満そうに口を尖らせた
「気持ちはわかるよ
あんな色っぽい女が目の前にいるんだ、我慢できないだろうさ、俺だってお前の歳だったらそうなる
でもな、それは愛情じゃなくて性欲なんだな、マリーンじゃなくても同じことするだろ?」
「そんなことない、僕はマリーンが好きだから」
(はぁぁ、このお年頃だと違いはわかんねえか)
「ああ、もう面倒くさい
マリーンは俺の女だ、手を出すな! そういうこった
気まずいだろうが、一つ屋根の下で女の取り合いなんて」
「取り合う? 僕はジェイからマリーンを取ろうなんて思ってないよ」
「なんにしろダメだ、マリーンがノーと言ってる
俺だって嫌だ」
「ヤキモチ?」
「なんとでも言え
とにかくマリーンに触れるのは許さん、今度はぶん殴るぞ
マリーンが俺を捨てるまで、マリーンは俺の女だし、俺はマリーンの男だ」
「へええええ」
あれほど食い下がっていたウィンだったが、その言葉には納得したらしい
「そうか
ジェイが嫌ならもうしない」
(なんだ、理屈じゃねえんだ、最初からこう言えば良かった)
ジェイだってこれでウィンが大人しくなるとは思っていないが、またなんかやらかしたら怒鳴り付ければいいと思っていた
子供なんてそんなもんだと
「ジェイ、ごめんね
僕のベッドで寝てよ」
「いらねえよ」
「じゃ、一緒に寝よ」
「いいよ、よけい落ち着かない」
そう言ってジェイはソファにごろりと横になった
開け放した窓から吹く風が湿り気を帯びていた