07. カイマナ・ヒラ
日々の合間に歌のレッスンは続き、ウィンは3日もするとカイマナ・ヒラをマスターした
「あとはベタだけどアロハ・オエとかハナレイ・ムーンなんかもいいわね
ジェイ、これくらいなら伴奏できるでしょ」
「ああ、大丈夫だ
それじゃ、ちょっと合わせてみようか」
ジェイはウクレレを持ってきてかき鳴らし、それに乗せてたちまちウィンの美声が響き渡る
I waho makou i ka po nei
A 'ike ika nani Kaimana Hira
マリーンの体が波のようにうねりハンドモーションで高い山を作ると、ウィンはその周りを歌いながら回り出した
ムーディーな曲が多いハワイアンの中では、カイマナ・ヒラは軽快な曲調で子供のウィンにふさわしくお客もノリやすそうだ
そして3人が顔を見合わせてエンディング、曲が終わると客席にお辞儀してみせた
「ステージングはこんな感じかな?」
「これならお客さんにも見せられるわね」
ジェイとマリーンが頷き合うと、背後からウィンがマリーンに抱き着いてきた
「マリーン、マリーン
僕、上手く歌えてた?」
「ええ、とっても上手よ」
「わーい、褒められた」
喜びのあまりなのか? ウィンはマリーンの胸を両手で掴んでたぷたぷと揺さぶった
ジェイは子供が母親に甘えるようなものかと思ったが、マリーンはウィンの手首を掴んでその手を振りほどいた
目が笑っていない
「ちょっと、待ちなさい!」
(これは…お説教タイムかな)
「俺、ミックスジュース作ってくるよ」
声の調子で察したジェイはその場を退散した
マリーンはきょとんとしているウィンに椅子に座るよう指し示した
「あなた、どこでそんな触りかた覚えたの?
あれは子供がやっていいことじゃないわ」
「えっ、いけなかった?
みんな喜んでくれたのに」
「みんな?」
「うん、女の人はみんな喜んでくれて、チップをくれたよ」
「まさかとは思うけど体を?」
「セックスするともっとくれたよ
男の人も女の人も」
予想してはいたが、あっけらかんと言い放たれた言葉にマリーンは絶句した
(なんてこと!)
清廉潔白な聖女様ではないにしろ、彼女なりの子供を守るという道徳心は持っている
生活に困って仕方なくというならまだしも、こんな子供が罪の意識すらなく身を売るなど
(ありえない)
「だめなの?」
「それは子供じゃなくてもやっていいことじゃないわ」
「みんな気持ちよくて、僕も気持ちよくて、おカネを貰えるのに?」
(ああ、どう言ったらいいんだろ)
「もっと自分を大事にしないと」
「僕はなんにも困らないよ」
マリーンはひとつ息を呑みこんで言葉を探した
子供にこのセンシティブな話をどう説明したものか…
「でもね、あなたを本当に愛する人が現れたとき、きっとその人は悲しむわ」
「そうなの?」
「ええ、まだわからないかもしれないけど、そのとき後悔しても遅いの」
「ふうん」
ウィンは生返事をして納得してないようだった
(これは男親の出番かしらね)
◆カイマナ・ヒラはこんな歌です
https://www.youtube.com/watch?v=HkHsf0-kIvE