06. ミセスロビンソン
ジェイとウィンが店に戻ると、マリーンがいくつもの段ボールを運び込んでいた
「なんの騒ぎだ?」
「通販で夏服を買ったの
ウィンのもあるわよ
二人ともほら、手伝って」
「わぉっすごい、おニューの服だ!」
ウィンは嬉しそうに段ボールを開け始めた
いままではジェイが若かった頃の服をお下がりで着ていたが、さすがにサイズが大きすぎてシャツもパンツもぶかぶかだった
「ちょっと、ここで開けないで
2階に持っていってからにして」
そんな言葉は聞き流され、ウィンは片っ端から箱を開けていき、引っ張り出した服を楽しそうに見比べて飛び跳ねながら試着しだした
着る物に頓着なさそうなウィンが、そんなに喜ぶとは思わなかったのでマリーンも顔をほころばせる
「よかった、サイズはぴったりね
よく似合うわ、ウィン」
「ありがとう、マリーン!」
ウィンはマリーンに飛びついてキスをした
目を丸くしているマリーンに経験済みのジェイはヘッヘと笑う
「ありがとうのキスなんだとさ」
ジェイは買ってきた魚で料理の仕込みを始め、ウィンはマリーンにお尻を叩かれながら段ボール箱を片付ける
段ボールがなくなるとマリーンはウィンに手招きして、二人でバルコニーの椅子に腰かけた
「ウィン、これを歌えるかしら」
マリーンはテーブルにスマホを置いてタップした
明るいミドルテンポのハワイアンが流れ出す
「うん、たぶん
これ英語じゃないね」
「ハワイ語よ、ちょっと発音が難しいかな
歌詞カードはあるけど、楽譜もあった方がいい?」
「いらない、楽譜は読めないから」
ウィンはハミングで音を追うとすぐにメロディをつかまえ、耳コピで最初の1節を歌えるようになった
「綺麗な声ね、耳もいいわ
これならすぐ覚えられそう」
「この歌、楽しくて好きだ
タイトルは?」
「カイマナ・ヒラ」
「なんて意味?」
「ダイアモンドヘッドってハワイの有名な山のこと」
「そっか、聞いたことある」
マリーンは立ち上がると曲に合わせて踊り出した
「それはマリーンの振付け?」
「私が勝手に振付けをするんじゃないわ
フラの振りにはみんな意味があるの
海や山や雨や風、花や愛もハンドモーションで表すのよ」
きらめく日の光が差し込むバルコニーで、美しく舞うマリーンを女神を崇めるように仰ぎ見るウィン
キッチンから二人を見守っていたジェイは眩しさに目を細めた
何故だろう
古い歌が彼の頭の中をよぎった
乾杯を、ミセスロビンソン
神様はあんたが思ってるよりあんたを愛してる
神の祝福を、ミセスロビンソン
天国は祈る者のために門を開けている
ジェイは首を振ってその歌詞を頭から追い出した
(神様が俺を許すわけがない
そんなヤツは神様じゃねえ)
『いろいろやらかした仲なのによ』
(やらかした?
ヨシキ、おまえはアレをそんな言葉で片付けられるのか)
潮の匂いが強くなった
また少し夏が近づいている