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44. 3Years Later(3年後)Day-6 罪と罰

月明かりが差し込む寝室。空のベッドの前で呆然と佇むジェイの背後から、扉が軋む小さな音が聞こえた。

振り返るとクローゼットの扉が半分開いて中に人影が見える。


「ジェイ、なの?」


「マリーン!」


クロ―ゼットから出てきたマリーンは、胸の前でナイフを握りしめ大きく目を見開いていた。


「なんで」「どうして」


「泥棒が入ったって言ったでしょ。もし、また来たらクローゼットに隠れて警察を呼べってウィンが。泥棒にしては入り口から入ってきたからおかしいと思って様子を見てたのよ」


「ウィンだとは思わなかったのか?」


「あのコはカギを持ってないもの。それよりなんで病院を抜け出したのよ、警察の人が見回ってるから大丈夫って伝えたのに」


「いや、その、昨夜アイツが来たんだ」


「ウィンが?」


「ああ、おまえを連れてくって」




数時間前、月が上り始めるころ。

病院の屋上に呼び出されたジェイは、上機嫌のウィンと向かい合っていた。


「何の用だ?」


「もう行かなくちゃならない」


「そうか」


「ありがとう、すごく楽しかった。こんなに楽しいの3年ぶりだ」


「よかったな。あいつと居てわかったか?」


「何が?」


「ガキだったおまえには、あいつが女神みたいに見えたはずだ。だがな、マリーンは女なんだよ、頭のてっぺんからつま先まで見事な女だ」


「そうだね、怖がりで寂しがりで意地っ張りで、本当に可愛い女の子だ」


「あいつは俺には過ぎた女だよ。俺みたいな薬中にはもったいない」


「ずいぶん弱気なんだ、そんなんだったら僕が彼女を幸せにする。プロポーズするよ、Yesなら一緒に旅に出るつもりだ」


「自信があるんだな」


「ああ、どちらにせよさよならだ。もう2度とここには来ない」


「雷とゴキブリ」


「なにそれ」


「あいつが嫌いなもの、我を忘れるほどだ。手近にいれば誰にでもすがりつくぞ」


「そういえば雷が鳴ったときには僕もベッドに入れてもらえたっけ。ねぇジェイ、どうしちゃったの、らしくもない」


「世界中でいちばん幸せにしてやりてえのに俺はどうしていいかわからない。おまえといるのが幸せだっていうならそれでいい」


「なんだよそれ、それなら僕がもらう、いいんだね」


「それはマリーンが決めることだ」


ジェイは右手を振って行けと合図した。


「カッコつけちゃって。後で泣いても知らないよ」




「それっきりアイツは行っちまったんだが」


「からかわれたのよ」


「そうだな、で、そのナイフは?」


マリーンは刃の方を自分に向けて、ジェイの右手にナイフの柄を置いた。


「護身用にって置いてったわ」


ジェイは3秒ほどナイフを見つめていたが右手を一閃、ダーツボードに向けてナイフを投げつけた。タンッと刃が突き立つ音と同時にマリーンが息を呑む声が聞こえる。


「あのバカ、こんな物騒なもん持たせやがって」


「ジェイ、私」


「いい、何も言うな」


ジェイはマリーンの言葉を遮った。

「すまなかった、怖い思いさせちまった」


「なんで謝るの?」


「俺はなんにもわかってなかった。おまえをどうすれば幸せにできるかって、それはおまえが決めるんだよな」


「私が本気であのコについて行くと思ったの?」


「それでも仕方ないと思ってた」


「いやよ、あんな危なっかしいコ、私はあっという間に未亡人になっちゃうわ」


「ありがとうマリーン。おまえがいなくなると思っただけで頭がおかしくなりそうだった」


「ジェイ、どうしちゃったの」


「これからも俺と一緒にいてくれるか? 俺はなんでもするよ、おまえが望むことなんでもだ、お願いだマリーン、俺と」


「ちょっと待って!」


マリーンが叫んだ。


「あんたそれ、プロポーズのつもりなの?」


「あ、いや、まぁ、そういうことになるのかな。ダメか?」


「ダメに決まってるでしょっ」


「やっぱり俺みたいなのは」


「当たり前よ、そんなミイラ男みたいな恰好でプロポーズなんてありえない!」


「え? ああ、そうか」


「もっとこう、指輪とか花束とか、綺麗な夜景の見える丘とかなんかあるんじゃないの?」


「いや、すまない。そうだよな」


「もう、やり直し!」


苦笑いしたジェイをマリーンは抱きしめた。


「あんたこそ私でいいの? ちゃんと考えて」


「マリーンしか考えられない」


ジェイも動く右手でマリーンを抱き寄せた。


その時マリーンの目には壁のダーツボードに突き立つナイフが映っていた。


似ている。

と彼女は思った。ナイフを投げる動作が全く同じ。


やはり親子だから?


こんな小さな仕草にさえ罪を感じてあのコを忘れることができない…それが私の罰。


マリーンは微笑み、それらすべてを受け入れることにした。


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