43. 3 Years Later(3年後)Day-5 真実の代償
ウィンが少し顔を傾けたとき笑みが消えた。
脇腹に細いが鋭く固い、刃が当たっている。
「マリーン?」
「本当のことを教えて、あなたがジェイを?」
「危ないから、こんなことやめよ」
しかし、マリーンは真っ直ぐに見つめた瞳をそらさない。
ウィンがすぅっと息を吸うとナイフの先がチクリと刺さった。
(いてぇなあ)
「どうなの?」
(そうだよな、タイミング良すぎるし僕が一番得してる。疑われるのも仕方ないか)
「そう思うならそのまま刺せばいい。指紋を拭きとって僕に握らせれば自分で刺したことになる」
「ちゃんと教えてよ、いつだってあんたたちは二人で勝手に決めて」
震えている肩に手を回し強く抱きしめると、キュッと身を縮めるのが分かった。
「ごめんね、不安にさせたよね。昨夜の見ちゃったんだ」
「あんな動きができるのは普通じゃないわ。あなたいったい」
「護身術を覚えないと危ない職場なんだ。マフィアや日本で言う暴力団の情報を抜くこともあるから。僕の会社の人間は基本をひと通り教わるんだよ」
「護身術?」
「人を攻撃するためには使わない」
「バルコニーは壊すのに」
「それは弁償する」
「ジェイのことは本当に違うのね?」
「違うよ、本当に。ねぇ、そのナイフしまおう」
「こうでもしないと本当のこと言わないでしょ」
「この隙を作るために僕と寝たの?」
マリーンは首を振って胸に顔をうずめた。
「そんなわけないじゃない」
ウィンは脇腹に押し当てられたナイフを取ると、掌の上で1回転させ水平に腕を薙ぎ払った。タンッと音がして壁のダーツボードにナイフが真っ直ぐに突き立つ。マリーンはそれを怯えた目で仰いだ。
「僕が怖い?」
「いいえ、でも」
「でも?」
「あなたが来るたびに悪いことが起きる。ヨシキやカイラ叔母さんのことも。ジェイだって当たりどころが悪かったら危なかったわ、だいたいあの銃はどこから湧いたのよ」
「それ全部、僕のせいだと?」
「そうじゃないけど、あなたの仕事は危ないことが多いんじゃないの? もっとこう、安全な仕事に代わらせてもらうとか」
「そうか…」
恐がりで寂しがりのマリーンが震えている。ジェイと別れて僕がいなくなったら、一人になったらまたどこかへ流されてしまうのだろうか。怯えている彼女を放っておける男なんていない。
「わかったよ、今の仕事は辞めてもいい。そうだ、マリーンと二人で世界中を旅しよう!」
「旅?」
「そうだよ、僕が歌ってマリーンが踊るんだ」
「街角で空き缶でも置くの? ジプシーみたいに」
「それもいいけど、マリーンならどこでも踊れる。リゾートホテルやレストラン、世界を回る客船とか。こう見えても顔は広いんだよ」
「それは楽しそうね、でもそんな暮らしは若いうちだけよ」
「お金を貯めて次はプロモーターになるんだ。若い踊り子や歌手を育てよう」
「素敵だわ、案外しっかりしてるじゃない」
腕の中で安堵の笑顔を浮かべているマリーンの髪を撫でた。
「マリーンを幸せにするためならなんでもするよ」
「きっと私は待ってたのね。あなたが大人になるのを」
「諦めなくてよかった」
「ね、もう一度」
「何度でも」
その微笑みは『愛』と言って差し支えないものだったかもしれない。
けれど二人は嘘をついていた。




