40. 3 Years Later(3年後)Day-4 Go kill yourself
(人の恋路を邪魔する奴は、犬に食われて死んじまえだっけ?)
ウィンは2階のベランダに身を伏せ、外の様子を探った。
店裏の入り江にジェットスキーが3機見えるが人影はない。
階下のバルコニーを覗くと3人とも店の中にいるようだ。
ベランダの手すりに足を掛けると、身を乗り出して逆さにぶら下がった。
猫のようにしなやかな動き、音ひとつ立てない。
庇から首だけ出して店内を覗くと人影が見えた。
黒ずくめの男が3人。
(いや馬に蹴られてだ、犬が食うのは夫婦喧嘩だった)
梁に逆手を掛け一気にバルコニーに飛び降りると、一番近くにいた男のこめかみにハイキックを当てた。ふらついたところを掴まえて手すりから海へ突き飛ばす。
すぐに店から飛び出してきた男の突進をかわすと、右腕で首を締めあげてナイフを突きつけた。店の奥から出てきた男はそれを見て両手を上げたまま近づいてきた。
(銃を使わないか)
狭くて暗い上に物の配置が分からない。そんな場所で撃てば跳弾の可能性が高い。
それを知っているということは(そこらのチンピラじゃないんだな)。
ウィンは首を振ってバルコニーから海へ降りていくように促した。男はゆっくりとすれ違い、バルコニーの手すりに手を掛け跨いだ。が、飛び掛かる体制に身を沈めたのを見て、ウィンは締め上げている男を突き飛ばしてぶつけた。
バルコニーの手摺りが粉々に砕け、二人はぎゃっと悲鳴を上げて落ちていった。
(しまった、マリーンに怒られる)
覗き込むと3人が足を引きずりながらジェットスキーの方へ走っていくのが見える。
見える範囲に母船はない、応援を呼びに行く気はなさそうだ。
(これで警察も動いてくれるだろう)
ウィンは目を細めて暗い店内に入って行った。
壊されたものはなく、椅子がいくつか転がっているだけだ。
(キッチンが荒らされてる、火でも点ける気だったか? って、これ僕を狙ったんだよなぁ…コソ泥って言ってマリーンは信じるかな)
そのまま店内から2階へと階段を上った、わざと軽やかな足音を立てながら。
そして寝室のクローゼットの前で止まるとその扉をコンコンと叩いた。
「もう大丈夫だよ。出ておいで」
返事がないのでもう一度ノックした途端、クローゼットの扉が押し開けられ、マリーンが飛び出してきた。
手には小さなナイフが握られている。
「マリーン、僕だってば、落ち着いて」
階下に降りる前に、護身用のナイフを持たせてクローゼットに隠れるように言ったのだが、出てきたマリーンはガタガタ震え、ナイフをきつく握ったままウィンを睨みつけていた。
「ああ、ウィン、あなたなのね」
しがみついてきたマリーンをウィンは胸で受け止め、子供をあやすように「よしよし」と頭を撫でた。
「追い払ったからもう心配いらない。今日は休んだ方がいい、ひどい顔色だ」
マリーンは答える代わりに唇を押し付けてきた。
「お願いよ、一緒にいて。恐いの、恐いのよ」
その腕に力が入ると体は震えが収まり、徐々に熱を帯びてくる。
「わかった、わかったからそんな色っぽい声出さないでよ」
「何よ、こんな脱がせやすい服を着せといて」
「自分では脱ぎにくいでしょ、そういう服なの
でもお願いだからいまは、僕が朝まで見張ってるから大丈夫だよ」
「違う、あなたが、あなたまでいなくなったら、私はどうしたらいいの?」
(そうか…)
いまさらながら気が付いた。
マリーンがいつも家族にこだわっていたこと、カネを無心するだけの親戚でも歓迎していた、ウィンが嫌がるのがわかっていても家族になろうと言い出した。ジェイを許せないのに離れることができないのも、愛情や執着だけじゃない『一人になりたくない』から。
泣きそうに顔をゆがめるマリーンをそっと抱きしめ、ウィンはベッドに彼女を横たえた。唇を額に付けると、胸の中で子猫のように丸まって吐息を吐いた。ジャスミンの香りが二人を包んでいく。
(これを我慢できたらノーベル賞が欲しいんだが)
もちろんそんな賞はない。




