39. 3 Years Later(3年後)Day-4 ブルーハワイ
素敵なドレスにカッコイイスポーツカーに、おしゃれなレストランのトリプルパンチ。
(バブルの頃ってこんな感じなのかしら)
バブルの頃ならそのままホテルの部屋へ直行だが、ウィンはお行儀よくマリーンを連れて帰った。
「僕、今日はがんばったでしょ」
「ええ、とても楽しかったわ」
「じゃ、ご褒美ちょうだい」
(ご褒美? ずいぶんストレートだこと)
「何が欲しいの?」
「僕のために踊ってよ」
夜とあなた そしてブルーハワイ
素晴らしく美しい夜
そしてあなたは私の最愛の人
一音下がってはいるがまだまだハイトーンのウィンの歌声が静かに響く。
それに合わせてマリーンが踊り出した。
ウィンが捕まえようと手を伸ばすと、笑いながらするりと身をかわす。
3年前、小さなウィンとした遊び。
手の届かない虹を追う子供の願いがいまなら叶う。
「捕まえた」
ウィンはマリーンを後ろから両腕で包み込んだ。
「アレクサ、ライトオフ」
「いつの間に…去年つけたばかりなのに」
「大人になったからね
僕は子供だからってだけで、ずっとフラれてた」
「今でもたいして変わらないわ」
「ちゃんと生え揃ったよ」
「まだ根に持ってたの」
「思春期のボーイには強烈だった」
クスクスと密やかに笑う声、暗闇にジャスミンの香りが漂う。
「マリーンは何故、子供でラインを引くの?」
「生理的に無理なの」
マリーンは詰まったが、一息つくと言葉を続けた。
「私も昔、売られそうになったから」
「え?」
「ウチが火事になったって言ったでしょ、あの時に生活に困って、両親がね…」
「そうだったんだ」
「危ないところで日本の芸能事務所の人にスカウトされて、もうちょっとマシな条件で契約という形で日本に来れたの」
「それじゃデビューしてたの? アイドルとか」
「グラビアのモデルとかね、でも小さな事務所ですぐダメになっちゃって
そしたらプロデューサーと寝てでも仕事とって来いって…結局、売られたのと同じだった
そんな事情があなたと重なったのよ」
「僕は売られたワケじゃないよ」
「でも、あなたのお母さんはどうかしら」
「そっか…それでジェイが許せない?」
マリーンは首を振った。
「わかってるのよ、ジェイだけが悪いわけじゃない、女や子供を道具にする奴らはどこにでもいる
でも例え下っ端でもそんなことしてたジェイと、何も考えずに幸せになるのは違う気がする」
「でもさ、母さんも幸せだったときはあったんだよ
ジェイのことは本当に愛してたと思う
だから、あんまり憐れまないであげて」
「そうね、彼女の幸せは彼女にしかわからない」
「良かった、僕が嫌いなわけじゃないんだ」
3年前は華奢だった身体に、いまは包み込まれてマリーンはウィンの腕の中におさまっていた。
(いつかこんな日が来るとわかっていたはず)
「そうね、私は小さなウィンが大好きだった」
「大きくなった僕は?」
その先を言う前にウィンは唇を塞いだ。いままでのどんなキスより甘い、毒。
マリーンから力が抜けていくのを感じて、抱き上げようとしたときだった。
(くっそー!)
動きの止まったウィンをマリーンは不思議そうに見上げた。
「あっ!」
マリーンにも聞こえた。
階下のレストランからガタガタという足音や何かをひっかくような音がする。
「1階から音が、誰? まさか」
「コソ泥かもね」




