38. 3 Years Later(3年後)Day-4 ありふれたロマンス
風が頬をくすぐる
過ぎてゆく景色は馴染のものなのに心がざわつく
(このド派手なスポーツカーのせいね)
「天気が良くて助かったよ、マリーンにはオープンカーが絶対似合うと思ったんだ」
笑うウィンの横顔が青空を切り取り、うっかりすると視線を持っていかれそうだ
何より腹立たしいのはウィンがそれを見透かしていることなのだが
「ハワイでもこんな派手なのに乗るのは観光客、それも新婚さんくらいなものよ」
「どうせ僕らはインバウンドにしか見えないよ」
マリーンは信号で止まるたびに周りの視線が気になったが、ウィンはルーフを閉める気はない
やたらと上機嫌なのが癇に障る
逆に不機嫌だったジェイが、あっさりと二人で出かけるのを許したのも意外、というより怪しい
(何か弱みでも握られたのかしら?)
しかし、隠し子より悪いサプライズがあるとも思えなかった
クルマは海岸線を逸れ、なだらかな山道を登り始めた
木漏れ日と木陰が代わる代わる視界に飛び込んできて、大きなカーブを抜けると不意に開けて正面に海が見えてくる
きゃっと、小さく悲鳴を上げたマリーンが体を預けてきてので、ウィンは微笑みながら「もうすぐだよ」と耳元で囁いた
その言葉通り、5分とたたないうちに山頂のホテルに着いた
キイをドアボーイに預け、マリーンをエスコートして展望レストランへと上がって行く
レストランにマリーンとウィンのカップルが現れると、フロアにほぅーっとため息があがり、チップを受け取ったウェイターは店で一番のロケーションの席に二人を案内した
(ちょっと待ってよ、ここって予約が取れないので有名な)
ウィンはニヤニヤしながらマリーンが目を丸くしてるのを見ている
(ほんっとに油断のならない小僧ね)
「ねぇ、僕たち恋人同士に見えるかな?」
3年前、堤防の上で小さなウィンが言った言葉だがマリーンは気付かないふりをした
「キャバ嬢のホスト遊びってとこかしら」
「キャバ嬢に入れあげてるバカなホストだよ」
ウィンはあはははと大口を開けて笑った
食前酒はシャンパン、グラスに泡ひとつ付かない
爪まできれいに気を遣っているウェイターが程よいタイミングで料理を運んでくる
間違いなく一流店なのにウィンはくつろいだ様子で、もう悪ガキの面影はない
(ぐいぐい来るわね、こっちのホームなのに分が悪いわ)
腹立たしくはあるが、だんだん面白くもなってきたのも事実…だが、このまま落とされるのはあまりに癪に障る
マリーンの口元が緩んだ
(こんな駆け引きも久しぶりね)
なんにせよ、女として扱われるのは気分がいい
「マリーンは今も踊ってるの?」
「ええ、店でも踊るけど、他でもね」
「他でも?」
「コンテストに出てみたらちょっと成績が良くて、その後イベントに呼ばれたりしてるわ」
「すごい! じゃあ、あちこちで?」
「日本ではフラのイベントは夏に集中するし、そんなに数は多くないのよ」
「もったいないなぁ、ハワイならダンサーでやってけるんじゃない?」
「そんなに甘くないわよ
でも個人レッスンのオファーは増えてる、お金持ちの奥さまたちはいいお客なの」
デザートが終わるとウィンはマリーンの手を取り夜景が臨めるテラスへと誘った
二人の姿がシルエットになった時、レストランの中にひそひそ声が広がっていくのをウインは聞き逃さなかった
「ほら、僕たちがキスするか賭けてるよ」
マリーンは笑って首を振ったが、ウィンは脇に左手を差し入れて思い切り締め上げてきた
「くっ」
息が詰まって仰向いた彼女の顔をすばやく覆う
「ごちそうさま」
「もう! こんなことばっかり上手くなって」
ウィンの顎にアッパーを繰り出したが止められてしまい、腹いせにヒールでつま先を踏んずけた
イタズラ小僧は痛い痛いと言いながら舌を出して笑っていた




